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卓上四季

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天ぷらの味

<天ぷらを食べるときには空腹でないといけない。それは自明の理である>。食通としても知られた作家池波正太郎は、そう断言していた▼油の火加減をととのえ、気をつめて揚げてくれた天ぷらを前に、ぐずぐず酒をくみかわし、語り合うのは礼を失する。<天ぷらが泣き出して、ぐんにゃりしてしまうし、料理人は気落ちがしてしまう>▼随筆「散歩のとき何か食べたくなって」(平凡社)に書いている。こだわりは徹底していて、なじみの老舗の暖簾(のれん)をくぐる日には、朝からなにも口にしないということもあったようだ▼空(す)きっ腹(ぱら)に、からっと揚がった熱々の天ぷら…。想像するだけでおなかがグウと鳴る。さて、この人が空腹だったかどうかは知らない。が、幼い子やお年寄りが飢えや寒さにおびえているさなかにほおばった天ぷらは、どんな味がしたのか▼関東甲信の物流が途絶した大雪の晩、安倍晋三首相は赤坂の高級店で支援者らと天ぷらを食べていたそうだ。その翌晩には麻生太郎副総理と有名フランス料理店で会食をしている。十分に腹ごしらえができたのだろう。おととい、ようやく豪雪非常災害対策本部を設置した▼「国民の生命財産を守る」というお得意のフレーズが空疎に響く。天ぷらやフレンチを食べるなとはいわない。首相は国民の空腹や恐怖を見て見ぬふりしてはならない。「自明の理」である。2014・2・20

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