「私たちは収容所の規則に従って生き、死ぬだけでした」

 飢え、拷問、目の前でみせられた家族の公開処刑……。

 北朝鮮の政治犯収容所に生まれ育ち、韓国に逃げのびた申東赫(シンドンヒョク)さんの体験をもとにした映画「北朝鮮強制収容所に生まれて」は、日本でも3月から各地で上映が始まる。

 その申さんからも話を聞いた国連の北朝鮮人権調査委員会が最終報告書をまとめた。400ページ近くにのぼり網羅的に惨状をあぶり出した異例の内容だ。

 核・ミサイル問題での制裁にもかかわらず行動を改めない北朝鮮に対し、中立的な国際調査団が人権のテーマでも深く切り込んだことは意義深い。

 収容所に限らず、一般住民も言論や思想、宗教などの自由がほぼ完全に否定されている。そうした国民全体の実態が、国策に基づく「人道に対する罪」にあたると判断した。

 日本人を含む外国人拉致についても「国策として組織的に携わってきた」と結論づけた。

 調査委は、北朝鮮が国内での調査を拒んだため、東京やソウルなどで公聴会を開き、脱北者や拉致被害者の家族らから聞き取り調査をした。

 脱北者の話がすべて正確とは限らないが、北朝鮮で人間の尊厳が無視されていることは否定できないだろう。

 国際社会はこの問題に関心を持ち続け、実態に迫ると同時に足並みをそろえて北朝鮮に圧力をかける必要がある。

 そこで気がかりなのは中国の対応だ。

 報告書は国連安全保障理事会に対し、責任者を訴追するため国際刑事裁判所に持ち込むよう促したが、常任理事国の中国は反対するとみられている。

 その中国自身も、報告書の中で、脱北者を強制送還していると批判されている。その事実を重く受け止め、他の理事国と歩調を合わせねばならない。

 北朝鮮は報告書を拒絶し、「人権侵害は存在しない」と反発している。本当にそう言えるのならば、国際機関や人道支援組織を受け入れ、詳しく調べさせるべきだ。

 調査委のカービー委員長は、報告書とともに「あなたも将来訴追されかねない」とする書簡を金正恩(キムジョンウン)・第1書記に送った。

 北朝鮮は最近、国際社会との友好・協力関係を発展させる、と強調しているが、人権は人類普遍の価値である。

 人権問題が改善しない限り、国際社会が注ぐ冷たい視線は変わらない。指導部はこの現実を直視しなければならない。