Business特集
パーソナルデータとプライバシー
2月19日 21時15分
私たちがインターネットを通じて日常的に提供している位置情報や商品の購入履歴。こうしたデータは「パーソナルデータ」(個人に関するデータ)と呼ばれ、いわゆるビッグデータの中でも特に利用価値が高いとされています。一方、パーソナルデータの利用はプライバシーの侵害につながるおそれがあるとも指摘され、なかなか利用が進まないのが現状です。
政府は、パーソナルデータを日本の成長戦略の一つと位置づけ、データが適切に利用されているか検証する新たな第三者機関を設置するなど、制度を見直すことにしています。
パーソナルデータの活用とプライバシーの保護を両立させるにはどうすればよいのか。ヤフーの執行役員で社長室長の別所直哉さんと慶應義塾大学総合政策学部教授の新保史生さんにインタビューしました。
(ネット報道部 山本 智・片山 大介)
プライバシー保護は企業が取り組むべき
別所直哉さんは、ヤフーのプライバシー保護やセキュリティ対策の策定など、一貫して、法務・コンプライアンス関連の業務に関わってきました。
別所さんは、日本の企業がこれから世界と競争していくためには、データが流通しやすい仕組みを作ることが大切で、プライバシー保護の取り組みも、利用者と接する機会が多い事業者サイドに任せることが大切だとしています。
グーグルやヤフーなどのIT企業を育んできたアメリカでは、プライバシー保護に関するルールは、学識経験者や市民団体などの意見を取り入れながら、企業がみずから策定しています。ルールに違反した場合は、当局から多額の課徴金が課せられるなど、厳しい制裁を受けます。つまり、アメリカでは、常にデータが流れ続けるような環境を整備しているんです。
少子高齢化が進むなかで、日本がこれから成長を続けていくためには、パーソナルデータの活用は重要です。国が過度の規制を行って、データの流れを阻害するような事態は避けるべきだと考えています。
プライバシーの保護はもちろん大切です。ただ、日本では、プライバシーの概念があいまいで、人によって受け止め方がさまざまです。
また、データを集める段階、利用する段階、第三者に提供する段階など、データの利用状況によってプライバシー保護のための対応は変わってきます。
このため、プライバシー保護に関するルールを一律に決めることは難しいのではないかと考えています。
プライバシー保護のルールは、アメリカのように、利用者の最も近くにいる企業に委ねられるべきだと思います。企業に任せると、データを好き勝手に利用されてしまうのではないかと懸念する方もいらっしゃいますが、通常の企業は、みずからのビジネスが継続させることを前提としています。利用者からの信頼を損なってしまっては、ビジネスを継続することはできません。企業は利用者のことを、いちばん真剣に考えている主体です。利用者を無視した行動をとることは基本的にはありえないと思います。
データの利用促進には一律のルールが必要
新保史生さんは、個人情報保護や知的財産権などが専門で、パーソナルデータ活用の枠組みを検討する政府の検討会の委員も務めています。
新保さんは、企業がパーソナルデータを安心して活用できる環境を作るためにも、第三者機関を設置するなど、国が中心となって、プライバシーを侵害していないかどうか、チェックしていくことが必要だとしています。
パーソナルデータの活用はこれからの日本の成長にとって欠かせないものですし、データの流通を過剰に規制することはよくないと考えています。
ただ、企業がパーソナルデータを安心して利用するためには、データの流通やプライバシーの保護について、統一的な法体系をつくるべき、データが適切に利用されているか検証する新たな第三者機関の設置が必要だと考えています。
私が懸念しているのは、企業の「萎縮効果」です。なぜなら、アメリカに比べて日本は、レピュテーションリスク(社会的リスク)が格段に大きいからです。
日本の企業がパーソナルデータを利用したビジネスを始めようとしても、プライバシーに敏感な人たちから“バッシング”を受けてしまうケースが多い。このため、仮に企業が自主的にルールを作ったとしても、多くの企業が「石橋をたたいて渡らない」状態に陥ってしまうと思っています。ルールが明確に決まっているから、自由にデータを利用できるというのが、日本の考え方だと思います。
プライバシーの保護がなぜ必要なのか、ひと言で言うと、自分の行動が制約されてしまうからです。
具体的な例を挙げると、インターネットのリコメンド(お勧め)機能があります。一見すると、自分にメリットがあるように見えますが、リコメンドによって自分の行動は変化しています。つまり、プライバシーが知られることによって、個人の自己決定権が阻害されているんです。
今はほとんどの人は意識していないと思いますが、パーソナルデータの利用が進んでいくと、こうしたケースが日常生活のあらゆる部分に広がってきます。一方で、利用者側は何もできない、無防備な状態に置かれてしまう懸念が出てくるのです。