WEB特集
全敗のアイホ世界との差は
2月19日 19時40分
アイスホッケー女子の日本代表は、5戦全敗で最下位の8位に終わり、長野大会以来16年ぶりに出場したオリンピックで、悲願の初勝利はなりませんでした。
夢だったオリンピックに挑むため、アルバイトで生計をたてながら競技を続けてきた選手たちは、世界との厳しい戦いで何を感じたのでしょうか。
ソチオリンピック取材班の近藤優美子記者が解説します。
遠い1点
最後の試合の直後、ふだんは感情の起伏を出すことのない日本のエース、久保英恵選手は、目を真っ赤に腫らしてこう話しました。
「これほど1点の重みを実感した大会はない。試合時間の60分間、ミスなく最高のプレーを続けなければこの大舞台では勝てない」。
ベテランの久保選手がこれまで国際試合で挙げてきた得点はチーム最高の26点。
その久保選手でさえ、ソチオリンピックの5試合で挙げたのは最終戦の1点だけでした。
久保選手をはじめ日本の選手が感じた世界との差は何でしょうか。
スピードを武器に挑んだが
世界ランキング10位の日本の持ち味はスピードです。
相手に素早いプレッシャーをかけたり、パックを相手陣地まで速攻で持ち上がったりして攻撃のチャンスをうかがいます。
平均身長が1メートル62センチの日本の選手が10センチ近く大きい欧米の選手と互角に戦うにはどうしたらいいのかを考えた末のプレースタイルでした。
しかし、オリンピックではそのスピード戦略も完全には通じませんでした。
今回対戦した相手はすべて世界ランキングで日本より上のチーム。
得点のチャンスはつくることは出来ても、ゴールを決めきるまでには至らなかったのです。
決定力で世界と差
敗因となった圧倒的な決定力不足。
日本は5試合で127本のシュートを打ち、得点は6点だけでした。
一般的にアイスホッケーでは、シュート10本のうち、1本が得点になると言われていますが、そうした確率から考えても低い数字です。
特に相手の反則で味方選手が1人多い時間帯のパワープレーは得点の大きなチャンスですが、日本は5試合合わせて19回もあったパワープレーで1点も挙げることができませんでした。
世界の強豪チームが守りを固めてくると、日本は攻撃陣がたとえ1人多くても、ゴールをこじあけるだけの力は、ありませんでした。
今後の強化のポイントについて日本代表の飯塚祐司監督は「国際大会で戦う経験が欧米の強豪チームに比べて乏しく、技術も足りない。定期的な代表合宿を継続するとともにこれまで以上に国際試合を経験し、高いレベルでのシュートの精度を上げて決定力を高めるべきだ」と話しています。
環境の変化と五輪の重圧
日本の敗因は技術的なことだけではありません。
ほとんどの選手にとって初めてのオリンピックは予想以上の重圧をチームに与えていました。
印象的な場面がありました。
予選リーグを3連敗した翌日、キャプテンの大澤ちほ選手がぽつりとつぶやきました。
「勝ちたいという気持ちばかりが前に出て、自分たちらしいプレーが出来ない」。
日本の選手たちがプレッシャーを感じるのには特別な理由がありました。
オリンピック出場を決めたあと、選手たちの環境は大きく変わりました。
日本のアイスホッケー女子の競技人口は1500人余り。
企業チームはなく、日本代表に選ばれる選手でも収入の不安定なアルバイトで生計をたてながら競技を続けていました。
しかし逆境を笑顔で乗り越え、オリンピックの出場権を決めた姿に共感が生まれ、支援が広がったのです。
多くの選手はこれまでアルバイト代で賄っていた代表合宿の遠征費を負担しなくてもよくなったうえ、希望した全員が日本オリンピック委員会の就職支援事業などを通じて就職先が見つかり、競技に打ち込める環境が整いました。
選手たちはこうした環境を維持させ、アイスホッケーの知名度をさらに広げるためにもオリンピックで結果を出さなければならないという気持ちに駆り立てられていたのです。
苦い経験も教訓に
長野オリンピックでアイスホッケー男子の主将を務めた、日本アイスホッケー連盟の坂井寿如強化本部長は選手たちのこうした苦い経験が成長する糧になればと期待を寄せています。
「選手たちにはオリンピックだからこそ感じる重圧がかかっていたと思うが、強豪のチームはそういった壁を乗り越えて上位でプレーしている。今回の経験を通じて、世界と戦うとはどういうことかを考え、成長する選手が出てくれれば」と話しています。
これで終わらせない
4年後、そして8年後のオリンピックに向けて、未来のアイスホッケー女子の選手たちの育成も静かに進んでいます。
去年8月、全国から小学5年生と6年生の女子選手46人が選抜され、日本アイスホッケー連盟主催の初めての合宿が行われました。
北海道や青森といったアイスホッケーが盛んな地域だけでなく、東京や大阪からも選手が集まりました。
オリンピック出場を夢見る才能のある子どもを発掘し、あすの日本代表選手として育てるためです。
16年ぶりのオリンピックで日本は悲願の1勝はなりませんでした。
しかし、アイスホッケー女子で日本は世界の舞台のスタートラインに立ったばかりです。
ソチでの敗北を強さに変えて、4年後のピョンチャンで、今度は「スマイル」を見せてほしいと思います。