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ナゴヤカルチャー

與那覇潤さんに聞く「歴史認識問題」

写真:與那覇潤さん 拡大與那覇潤さん

 第2次安倍政権の発足後、よく目にするのが「歴史認識問題」。中国・韓国は右傾化と批判、首相の靖国参拝では米国まで「失望した」とする一方、国内では支持する声も。この動きについて、愛知県立大准教授で日本近現代史が専門の與那覇潤さんに聞いた。

●もはや歴史ではない?

――「歴史認識問題」をめぐる動きをどう見ていますか。

 歴史認識問題と呼ばれていたものが、実はもはや歴史問題ではなくなっているように感じます。1990年代に「新しい歴史教科書をつくる会」や、小林よしのりさんの『ゴーマニズム宣言』が論争を呼んだころは、かろうじて歴史観という物語どうしがぶつかっていた。でも、いまは単なるエピソード対決。従軍慰安婦問題などで「ひどいことをした」という主張に対して、「いいことをして感謝された日本人もいますよ」と返すだけなら、個々の挿話をつなぐ歴史観=物語はもういらなくなる。

 典型的だったのは、NHKの籾井勝人・新会長の発言です。慰安婦問題に関する従来の右派的な立場は、「軍や官憲が、国家の意思として強制連行した証拠はない」というものでしょう。ところが籾井氏は「韓国は日本だけが強制連行をしたみたいなことを言うからややこしい」として、あたかも日本も強制連行したが、他の国もやっていたはずじゃないかと言う。要するに、韓国に言い返せれば歴史認識はどうでもいいと、そのレベルになっているわけですね。

――朝日新聞の1月末の世論調査で安倍晋三首相の靖国神社参拝への支持が41%ありました。

 安倍首相は参拝後に、過去の戦争を賛美するものではない、むしろ「不戦の誓い」をしたんだと述べました。まさしく、歴史認識の問題とは切り離して考えましょうよと。それが、狭義の右翼的な歴史観の持ち主以外も捉えたのでしょう。小泉純一郎首相の時と、似た戦略を立てたのだと思います。

 問題は、世界はそう見ないということで、中韓はむろん米国にまで批判されてしまった。お前たちは無条件降伏をして、東京裁判を受諾することで戦後世界の秩序に復帰したんだろうと。日本人の一部が「東京裁判史観」をいかに呪おうと、現にそういうストーリーに基づいて、今日でも国際政治は動いているんですね。A級戦犯を祀(まつ)った神社に参拝しながら「いえ、われわれは歴史観への挑戦はしていません」では通らない。

●批判者こそ「物語」を

――安倍首相が口にする「日本を取り戻す」というフレーズ。いつの時代に戻すのでしょう。

 安倍さんを熱烈に応援している人たちは、そういう国際社会版の「戦後レジーム」から脱却すれば、もう外国に気兼ねしないでいい「自立した日本」が取り戻せると思っているのでしょう。しかし、単に海外を無視したいという欲求は、江戸時代の鎖国よもう一度、と言っているのと変わりません。

 むしろ歴史的にみて、いまの日本の状況に似ているのは、日清戦争前の朝鮮(李氏朝鮮)の方です。普天間から靖国まで、日本がどこまで米国に「従属」しているかがはっきりしないように、当時の朝鮮も中国(清)からどこまで「自立」した国なのかが曖昧(あいまい)だった。平和なあいだはそれでよかったのですが、明治日本が台頭して国際関係のバランスが崩れると、従属なり自立なりの「白黒をはっきりつけろ」という声が各国で高まり、最後は戦争になりました。

――極端なナショナリズムに陥らないためには。

 批判する側こそ、しっかりした物語を語ることです。単なる「戦前日本残酷エピソード集」では、「実は日本人はすごかったエピソード集」に、人気や売り上げで勝てないのは当たり前ですから。

 そしてその物語が、過去の日本人を「他者化」して非難するのではなく、その過ちや欠点も含めて「自分の」個性なんだなと、思えるものであること。昔は潔癖症的に全面的な正義を要求する左派に対して、国家たるものどこかで傷や汚れを引き受けざるを得ない、と説く役割だったはずの保守派が、いまは「日本だけは完全無欠だ」と叫んでいる。そういう時代だからこそ、どれだけ汚点やみじめさがあったとしても、自分たちの過去を省みて慈しむことができるような自画像を、批判者の方が描いていく必要があると思います。(聞き手・高橋昌宏)

《よなは・じゅん》

 1979年生まれ。著書に『中国化する日本』(文芸春秋)など。朝日カルチャーセンター名古屋教室で3月、特別講座「いま、一番新しい日本史」の講師を務める。

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