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立憲主義に反する内閣総理大臣の発言に抗議する声明

2014年02月19日

東京弁護士会 会長 菊地 裕太郎

1 安倍晋三内閣総理大臣は、2月12日の衆議院予算委員会において、委員の質問に対し、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更をめぐり、「(憲法解釈の)最高の責任者は私だ。政府の答弁に私が責任をもって、その上において選挙で審判を受ける。審判を受けるのは法制局長官ではない、私だ」と答弁した。これは、内閣法制局における議論の積み重ねを尊重してきた歴代内閣の基本見解を覆すものであるだけでなく、時の政権の思惑によりいつでも自由に憲法解釈の変更ができるとするものであり、また憲法解釈の変更後に選挙で審判を受ければ良いという考え方は、憲法が定める厳格な憲法改正手続を実質的にないがしろにするもので、立憲主義と憲法秩序を根本から破壊することにつながり、到底容認できない。  
2 また、安倍内閣総理大臣は、去る2月3日の同委員会においても、立憲主義について「王権が絶対権力を持っていた時代の主流的な考え方だ」とも述べたが、この発言は、主権者国民の人権擁護を至高の価値として、人権侵害の危険を持つ権力の発動を制約するために憲法を制定し、主権者国民が権力に憲法を守らせることとした近代立憲主義に対する無理解を示すものである。
  実際、第二次大戦前のドイツは、当時もっとも民主的といわれたワイマール憲法の下にある国民主権国家であったが、選挙で誕生したナチス政権の憲法を無視した暴走により、ユダヤ人虐殺等の未曾有の人権侵害を引き起こした。このように、権力が暴走して国民の人権を侵害することは過去の歴史ではなく、今まさに世界各地でも生じていることである。憲法と立憲主義は、そのような権力の暴走を抑制する最重要の機構として、その意義は今も全く失われていない。
3 当会は、昨年9月18日、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の検討作業や内閣法制局長官の更迭など「集団的自衛権行使は憲法上許されない」とする歴代日本政府の確立した憲法解釈を強引に変更しようとする一連の動きや、真っ正面から集団的自衛権行使を容認し、国家安全保障を国の最優先事項と位置づけて国民を総動員することを定める「国家安全保障基本法」制定の動きに強く反対する会長声明を公表したが、今回の安倍内閣総理大臣の発言は、これらを上回る憲法と法秩序に対する挑戦とも言える暴言であって、到底看過できない。
4 よって、当会は、立憲主義をないがしろにし、憲法によって縛られるべき権力者が自らの考えで憲法解釈を自由に変えても構わないとする安倍内閣総理大臣の発言に、強く抗議するものである。