刑事裁判の被告にとって有利な証拠を、埋もれさせない。このルールを確立するときだ。

 捜査や公判を改革する法制審議会の特別部会で、検察側の手元にある証拠の開示のあり方が焦点になっている。

 証拠は圧倒的に検察側に集中するものだ。だが、検察側の主張に合わなかったり、矛盾したりする証言や鑑定結果などの証拠を、検察側が裁判で調べるよう求めることはまずない。

 有罪かどうかを左右する証拠があっても、弁護側は存在さえ知りえない状態が続いてきた。

 そんな検察側と弁護側の格差に変化をもたらしたのが、05年に始まった証拠開示制度だ。弁護側の主張を補強する証拠にもアクセスする道が開かれた。

 それでも、検察が抱えるすべての証拠が明らかになるとは限らない。小出しで出されて公判が始まるまで時間がかかる、といった課題もうまれている。

 検察側の証拠の独占が深刻な影響をもたらすこともある。

 ネパール人男性の無期懲役が最高裁で一度は確定した東電社員殺害事件では、再審でやっと第三者の犯行を強く疑わせる現場遺留物の鑑定書などが裁判に出てきて、無罪になった。

 厚生労働省の村木厚子さんが無罪になった郵政不正事件では、検察が保管していた証拠を改ざんした。それが発覚したのも、裁判所が捜査報告書の開示を決めたからだった。

 特別部会では、検察側がもつ証拠の一覧表を出させることを検討している。このようなリスト化は弁護側の活動には不可欠なものだろう。

 捜査当局には、一覧表上の各証拠の記載を、タイトルや作成日など最低限にとどめようとする姿勢がみえる。だが、どんな遺留物の、どんな鑑定結果なのかなどと具体的に示さなければ活用のしようがない。

 また、供述調書の開示が求められるときに、検察側が「捜査報告書」「取り調べメモ」などの形式にして開示を免れようとする傾向も指摘されている。実質的に供述を記載したものなら対象とすべきだろう。

 捜査側の思い込みが、証拠を見る目を曇らせることもある。証拠を違う角度から吟味できるしくみを確立したい。

 証拠開示の制度をどれだけ整えても、捜査当局が証拠を一手に管理する以上、隠滅などの可能性は残る。

 集めた証拠は当局の所有物ではないし、有罪立証だけのためのものでもない。真相を解明するための公的な役割をもっていることを肝に銘じてほしい。