もう、笑うしかない。1月下旬からモスクワで調整してきた高橋は、端正な表情にシャープさが増した。ソチ国際空港にかけつけた報道陣からSPの曲に関する“禁断”の質問が飛ぶと、苦笑いを浮かべ、率直な思いを打ち明けた。
「このタイミングで『勘弁してよ』と思ったけど、この曲を作った人が誰であろうと、どういう形だろうと素晴らしい曲」
いまや“いわくつき”となってしまった『ヴァイオリンのためのソナチネ』。高橋は楽曲を耳にした際、絶望の中から希望を見いだした。昨年11月のNHK杯では95・55点の自己ベストをたたき出すなど、相性は決して悪くない。
作曲者が別人という衝撃の事実は日本では大きなゴシップとなったが、日本スケート連盟関係者によると、国際スケート連盟(ISU)はこの問題を重視していないという。昨年11月に痛めた右すねは順調に回復しており、集大成と位置づける3度目の五輪へ気負いはない。「動揺はしなかった。早く解決してくれたら」。日本時間14日のSP。疑念を挟む余地もない完璧な演技で、高橋が“佐村河内ショック”を振り払う。(江坂勇始)
★“佐村河内騒動”の経緯
5日未明に、高橋大輔がSPで使用する『ヴァイオリンのためのソナチネ』の“作曲者”佐村河内守氏の楽曲が、別人が作曲していたものであることが発覚。6日には桐朋学園大非常勤講師の新垣(にいがき)隆氏(43)が会見を行い、18年にわたり佐村河内氏の名で代わりに楽曲制作していたことを明らかにした。その中で「高橋選手には五輪で堂々と戦っていただきたいと思い、会見を開かせていただきました」と五輪前に真実を明かした理由についても言及した。高橋は所属する関大の公式サイトで使用曲を変更しないと発表。国際スケート連盟も楽曲使用は問題なしという見解を示している。
(紙面から)