以下は、 『名張育成園だより』 (平成17年10月1日発行) 48号 の内容を転載しています。
                                        
                    池田  直樹
             (大阪アドボカシ-法律事務所弁護士)

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                       〜 プロフィール 〜

いけだなおき ◎1976年京都大学法学部卒。86年に大阪弁護士会に登録して弁護士活動に入る。
97年から3年間大阪後見支援センター(あいあいねっと)で専門相談に携わり、 その他、日弁連の
人権擁護委員会、高齢者・障害者の権利に関する委員会の副委員長を務めるなど、高齢者や障害
者の人権問題をライフワークとし、この分野の活動や訴訟に積極的に関わっている。

 [事例1]

 軽度の知的障害のA子さん(35才)。父母は既になく、施設
で暮らしています。今まであまり付き合いのなかった叔父が突然
施設にやってきて、「今、私の会社で作っている健康器具を100万
円で買ってくれないか」と言いました。
 久しぶりでなつかしく、長い施設暮らしで年金が貯まっていた
ので、買ってあげることにしました。でも届けられた健康器具は
部屋に置けないもので、安物でした。どうしたらいいのか困って
しまいました。

 [事例2]

 重度の知的障害のあるB男さん(40才)。 父は最近死亡し、
母は脳内出血で入院し意識不明の状態。父の相続財産として不動
産があり、兄はこれを処分しようと思っていますが、B男さんの
了解が得られないので困っていたところ、知り合いから、「相続
放棄書」に署名をもらったらいいではないか、とアドバイスを受
けました。B男さんは何か間違っていると思いましたが、どうし
たらいいのか分かりません。


(1)間違った契約を取り消せるか?


 法的判断が不十分な人でも、成人であれば売買契約はできます。
特に高価な商品を買う場合は、慎重に考えてから結論を出します。
 [事例1]のA子さんが安易に買ってしまったのは間違いといえ
ます。
 これからも同じようなことが起きるかも知れませんが、A子さん
が成人である以上、間違ったからと言って売買契約を取り消すこと
はできません。
 しかし、A子さんは知的障害があるので、家庭裁判所で、「成年
後見の審判」を受けておくことができます。     

 
この審判を受けておれば、間違った契約を取り消すことが認め
られます。さらに、この審判を受ける際に、特別に「成年後見人」
を選任することが認められ、この成年後見人に「取消権」が与え
られる場合があります。この場合は成年後見人が判断して、A子
さんがした契約を取り消してくれます。


(2)共同相続人に知的障害のある人がいる場合


 相続財産として不動産がある場合、相続人が数人いれば法定相
続分に従って共同相続になります。 つまり相続人全員の共有で
すから、これを売却する場合は共有者全員の同意が必要です。
 B男さんの同意を取り付けることはできないので、「相続放棄
書」に署名捺印をさせてしまえば、あとの分割協議や売却に関わ
ることができないので、兄には都合がよかったのでしょう。
 しかし、「相続放棄」の意味も十分理解できていない以上、そ
のような形で処理することは違法です。正式に「成年後見人」を
選任して、成年後見人とともに遺産分割協議を進める必要があり
ます。


(3)成年後見制度

 新しい成年後見制度(民法改正等)は2000(平成12年4月
1日)に施行されました。
 成年後見法制の改正の背景としては、高齢社会への対応 及び
障害者福祉の充実のための施策の一環として、この制度を柔軟かつ、
弾力的な利用しやすい制度に改める必要がありました。
 この制度の背景となる理念として、自己決定の尊重、残存能力の
活用、ノーマライゼーション(高齢者も障害のある人も、家庭や
地域で通常の生活をすることができるような社会をつくるという
理念)が位置づけられました。