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2014-02-14

「逆襲のシャア」とヘルメット

今更と思われるかもしれないが、『逆襲のシャア』で気になる描写がある。それは「ヘルメット」に関してのもの。富野由悠季監督によって細かく指定されているのだと思うが、ヘルメットを脱いだり被ったりといった芝居が妙に多い。

まず序盤にあたる小惑星5thルナの戦闘中、アムロはヘルメットを被っているが、シャアは被っていない。

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サザビーの頭部はシャアはヘルメットをイメージしたものだというのに、当のシャアは仮面を外した素顔を堂々と曝け出す。ヘルメットを被らなかったのはギュネイの援護が本命であり、そもそも今のアムロに落とされるはずがないと考えていたからだろう。ファンネルを温存するなど、余裕が垣間見える。

続くラー・カイラムに帰投したアムロと待っていたブライト。

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戦闘空域から帰ってきたばかりで、まだ張り詰めているアムロの厳しい心理をヘルメットを脱がないことで伝えている。月に向かうアムロが仮眠を取るシーンでは、わざわざヘルメットを脱いだと知らせる念の入れよう。たしかに段取りの上では必要だが、シチュエーションで繋ぐ富野由悠季監督にしては丁寧すぎる段取りに思える。ぞんざいな扱い方といい、「やっと一息付ける状況になった」という意味を込めた芝居だったのだろう。気を張っていて少し荒くなっていたアムロの心理状態を「ヘルメットを脱ぐ芝居」ひとつで表現。あるのとないのとでは大違いだ。

ここまでは序盤の一例。戦場への機微や圧迫感、力量への自信といった人間の心理を「ヘルメット」でキャラクター付けしていることがよく分かると思う。富野由悠季的リアルの目配せと言い換えてもよさそうだが、この指定の細かさはなまなかではない。もう少しみていこう。「ヘルメットを被らない」人物の代表格はクェスとレズン。前者は宇宙や戦場の怖さを知らない子供のエクセントリックさを強調するものとして、後者は己の腕を信用してのことだった。レズンに関して、対照的にカットを繋いでいるシーンがある。

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SALLY」がバックに流れる中、νガンダムを駆るアムロに続いてレズンの出撃へと繋いでいるのだが、冷静にみて「何故アムロのコックピットは開いたままなのか?」という疑問がある。ロングショットでよく見えないアムロの前に、かがみ込むガンダムの顔が出てくるまでをワンカットにまとめ、この後に及んでまだヘルメットを被らないレズンを「自信過剰な敵エース」として強調するためだったのか、理屈や説明よりも演出が前に出たカットだ。レズンの次のカットがヘルメットを被るためだろう、髪をまとめているナナイだったことからも、意識的に「戦闘開始の合図とヘルメット」を使っていたと伺える。

戦闘が始まり、レズンはどのタイミングでヘルメットを被っていたか。

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ラー・カイラムに取り付いたときには被っている。弾幕をかわし、あと一歩踏み込めば落とせるという間合いでチェーンの機銃によって撃墜されてしまうのだが、その瞬間にはバイザーを下ろしている。危険度によってヘルメットを被る→バイザーを下ろす、と段階があることを暗に示しているが、描写自体は割愛されており、一見しただけでは分からないかもしれない。ただし、「バイザーの芝居」はかなり出てくる。

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先陣を切るケーラはバイザーを下ろし、νガンダムを捕まえたギュネイはバイザーを上げる。それぞれの性格を反映し、一律の芝居にしていないところに人間味を感じる。焦燥感と功名心の入り混じったギュネイの心情をバイザーで表現するなど、あまりに自然な芝居だ。富野監督が人間の動きをどんな目で見ているか、一端が分かろうというもの。観察力の賜物だろう。

それにしても、こんなにヘルメットが画面に出ていたのかというくらい、注目すると面白いアイテムだ。最終決戦までノーマルスーツを着なかったハマーン・カーンや『F91』の鉄仮面といった『逆襲のシャア』前後まで含めると、さらに広がりを増すだろう。他ガンダムシリーズとの比較もいつかしてみたいなあと思う。今回はこの辺で。


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