ぼくは美術大学で4年間デザインを勉強してて、なかでも紙媒体のグラフィックデザインを専攻してた。所属研究室もプリントメディアを専門にやるところだったし、卒業制作も、なんか本みたいなの作ってた。だから、ぼくがWebデザインをやっていることについて、意外に思われたり、不思議がられたりすることがある。その研究室でわざわざWebデザインを志す人は殆どいないからだ。
しかし、紙で学んだことが無駄だと思ったことは一度もなくて、むしろWebデザインで非常に役立っている。ぼくが紙媒体を専攻してた理由は、紙は歴史のあるメディアだし、グラフィックデザインの基礎をちゃんと学ぶのに最適と思ったからだ。基礎というのは、タイポグラフィの扱い方とか、ジャンプ率とか、配色とか、そういうデザインの諸ルールのことで、そのルールはそのままWebデザインに通用する。今のWebデザインの流れを見ていると、フラットデザインとか、Webフォントとか言われてて、それはベーシックなグラフィックデザインをちゃんとやっていこうという機運だと解釈してるんだけど、そういう機運があって、昔よりも紙とWebの表現手段が近づいていて、デザインの基礎知識がどんどん活用しやすくなっていると思う。
あと、美大に4年間居れたというのも役立ってる。美大では上記のようにデザインの基礎を学べた。スキルも学べたけど、マインド的な部分を学べたことが大きな収穫で、デザイン的な思考というと語弊があるかもしれないけど、そういう考え方が自然とできるように、洗脳に近い教育を受けたのも良かった。周りの環境も良かった。僕の知っている美大生、暇さえあれば妄想しているような人たちで、世界観とか、コンセプトとか、そういうことを考えるのが大好きな人が集まっている。こう書くと変な人達っぽいけど、そのコンセプトこそ、デザインで最も大事な要素なのはデザイナーの間では常識だと思う。デザインにおいて、見た目とはデザインの要素のごく一部で、それよりも、それをもって何を伝えたいとか、どんな世界を作りたいとか、場合によっては仕組みまでデザインしちゃおうとか、そういう主張を持つべきだ、というのは美大で真っ先に教わる。それは例えばWebサービスを開発するときの、コンセプト立案にそのまま活きる。こういう考え方が自然とできるWebデザイナーは、観測範囲での意見だけどきわめて稀だと思う。
美大生、そういう、稀な人材になれる可能性がある。問題なのは、3年とか4年とかになって、就活始めるかとか思ったとき、いざWebデザイン勉強しようかと思っても大抵遅いということだ。めちゃくちゃ頑張ったら遅くないけど、ただでさえ就活で忙しいのだから現実的には難しいと思う。まして、大学卒業して、一度紙の仕事を始めてしまうと、そこからWebの世界に転職することはかなり難しくなる。つまり、大学1年とか2年とか、早い段階からWebの世界に触れておいたほうがいい。ぼくは、中学生のときから自分のしょぼいホームページ作ってて、marqeeで文字動いたとかいって喜んでた過去があったから、なんとかなったけど、それでもちょっと大変だった。今の人は物心ついたころからスマホだし、個人サイト作る文化とか絶滅しかかってるし、ウェブデザインも成熟してて何をどうしたらこれが作れるのかわけわからないサイトばかりだから、大変だと思うけど、ちょっとずつやっていったらなんとかなると思う。デッサン覚えるより簡単だと思う。
だから、いま広告とか、ポスターとか、パッケージ一筋みたいな、そういうのに興味がある学生は、それもいいけど、片手間にWebでもいじくって遊んでみたらいいと思う。最初から向いてないとかいって、可能性を捨てることはないと思う。僕も自分は向いてないと思ってたけど、なんとかなっている。じゃあ何から始めたら良いんですか、というのは、まだちゃんと答えを持っていないのだけど、とりあえずブログを始めたら良いと思っている。Webで情報発信したことない人がWebデザインしようとか思うわけないので、まずはWebで自己表現するおもしろさを知る一歩として、ブログが最も適していると思う。
なんでこんなこと書いたかというと、出身学科のカリキュラムが変わって、1年後期でWebのポートフォリオ作る課題が出るようになったらしいんだけど、1年ではWebデザインの講義がないので、講義無いままいきなりWebサイト作れって言うほうが無茶な話で、こんな調子では学生がますますWebに苦手意識を持つに決まってるから、なんとかしたいと思って書いた。