フロム、リースマン、日高六郎等の「社会的性格」(性格類型)について述べよ。
T はじめに
私達はよく「性格」という言葉を用いるが、それはどのような事を示しているのだろうか。一般的に「性格」とは、「物事の考え方や感じ方、その行動によって特徴付けられ、その人独自の性質」だといえる。いわば、個々人の価値観であり、ここでは「個人」焦点を当てた見解である。では、「社会的性格」とは何であろうか。
私達人間は、自分ひとりで生きているのではなく、周りの人間と相互に作用・同調しながら、社会という構造を築き上げ、その社会という枠組みの中で生きている。性格の形成にあたり、遺伝子の要素はもちろんの事ながら、環境による影響の比重は多くを占めている。その環境が「社会構造」であり、個人に影響を与える一方、集団として統一された価値観の同調、さらには社会構造自体にも影響を及ぼしている。それが「社会的性格」である。次に、社会的性格を「フロム」「リースマン」「日高六郎」の三者を項目ごとに述べてく。
U フロムの社会的性格の見解
(1)社会性格の規定
「自由からの逃走」で社会的性格の見解にあたり、性格構造と社会構造との相互関係を解明し、社会心理学における重要な概念として提示したのは、フロムが最初だったというのが定説になっている。
フロムは、社会的性格の定義を「個々人が持っている特性のうちから、一部を抜き出したもので、一つの集団の大部分の構成員が持つ性格構造の本質的な中核であり、その集団に共通した基本的諸体験と生活様式の結果、発達してきたもの」としている。
さらにフロムは、社会構造を存続し維持するためには、その社会が望ましいとする行為を組織として、個々人を集結する事が不可欠となるが、そのような意図的な行為がなくても社会条件に適応していくうちに、個人の社会に対する使命が、自然に欲するようになる特性があると言う。それは、社会の要請に適応している限り、所属集団や社会の成員であることが保証されるからである。また、その特性が社会的に共有され「社会的性格」になるとき、@社会構造が安定している限り、社会体制を維持するセメントとなるが、A社会構造が不安定になると、新しい社会の形成と発展に貢献する爆薬になる2つの機能を有する。
(2)性格類型
@需要的構え:封建社会ではぐくまれる性格類型。自分の欲求は外部から満たされると考え、ひたすら受け取る事だけを志向する。
A搾取的構え:封建社会の「おいはぎ貴族」や19世紀の「冒険的資本家」に代表される性格類型。自分の必要とするもの、他から奪ってくる事だけを志向する。
B貯蓄的構え:教養と財産を持った私的資本家として活躍した自由資本主義時代のブルジョアに代表される性格類型。勤勉・秩序・倹約を好み、浪費を敵とし、貯蓄に安心感を求める。
C市場的構え:高度産業社会の現代人に顕著に見られる性格類型。自己を商品とみなし、交換価値という観点から、自己を高く売りつけることのみ志向し、成功のために他者の承諾を追い求める。
D生産的構え:未来社会において実現すべきであるとされる性格類型。自己の潜在能力を発揮できる創造的な仕事を志向する。
V リースマンの社会的性格の見解
(1)社会的性格の規定
リースマンは、フロムの見解を継承し、社会的に必要かつ望ましいとされる社会的要請にその構成員が対応して示す「同調の様式」を社会性格と呼び、それはパーソナリティーの中の後天的に獲得された部分であり、社会的・歴史的に条件付けられた、個人の欲求と満足の永続的な組織、すなわち、個人が世界と人々に対処していく姿勢であると彼は定義している。
(2)性格類型
リースマンは、社会的性格の類型において、「保証化された同調性を確保する方策として、以下の三つを提示している。
@伝統指向型:伝統や慣例に従うことにより、同調性が保証されるような社会的性格。
A内部指向型:幼少期に植え付けられた剛直・進取・自律などの内面的価値を自己の行動指針とする事より、同調性が保証されるような社会的性格。内部志向的人間は内面化された尺度を持っており、自分自身の価値(どのような信念を持ち、目標に向かって努力しているのかという側面)について、自ら内面的な判断を下す事が可能である。
B他人指向型:同時代としての知人・友人、あるいはマスメディアを通じての間接的な他者の意向や情報に絶えず気を配る事により、同調性が保証されるような社会的性格。現代において、このタイプの人間は多く見られ「自分がいったい誰なのか、またどこへ行くのか、について懐疑的になる」とリースマンは指摘している。
W 日高六郎の社会的性格の見解
(1)社会的性格の規定
彼も基本的に、フロムとリースマンの見解に立脚しているが、社会性格を「人間が同一の環境、共同の運命のもとで生活するとき、そこには共通のパーソナリティーが形成される」と述べ、集団的、もしくは階層的なパーソナリティーとして類型づけが可能な社会的性格と、所属集団や階層帰属とは関わりなく設定しうる。
(2)性格類型
@性別による社会的性格:男らしさや、女らしさ等。
A年齢階層による社会的性格:子供らしさや、青年らしさ等。
B基礎的集団による社会的性格:田舎者や江戸っ子など、村落や都市、地方に見られる民族的性格。
C機能的集団、あるいは社会的機能の文化に基づく社会的性格:カトリックやプロテスタント等の特徴的社会性格、また職人気質や官僚的性格等の特殊なタイプ。
D階級別による社会的性格:ブルジョア的、プロレタリ的、農民的性格等。
X まとめ
「性格」という概念を考えるとき、それは「心理的」な概念の中にあると思われがちである。確かにその要因は含まれるが、その多くは環境によって左右され、「社会構造」との関わりが大きく影響する。それは上記に挙げた三者の「社会的性格」の見解からも確認できる。
自己の存在は他者や環境の存在・働きかけにより認識でき、自己の性格を刻印している。言語や習慣、歴史、社会環境、自然、流行、メディア、さらには日常会話や近所の見知らぬ人なども、社会的性格を形成する一要素といっても過言ではない。また、その一社会を円滑に生きるためには、その社会が要求する社会的要請を受容しなければならなく、それは具体的な規範であり、加えて「暗黙の了解」の黙認の規範も含まれる。つまり社会的性格とは、社会構造との相互的な関係であり、その中から形成されていく。
スメルサーの集合行動の理論について述べよ。
T スメルサーの集合行動の理論
スメルサーの集合行動の理論は構造的誘発的要因から集合運動が出現する価値付加プロセスにある。そして、群衆や公衆といった未組織の集合体の行動、また市民運動や革命運動などの社会運動の総称としての集合行動を理論化し、その定義は「社会的行為を再規定する信念にもとづく動員」としており、T・パーソンズらの行為理論から出発している。
スメルサーはまず、集団行動の理論を考察するさいに、社会的行為の基本的な構成要素を4つ提示している。
@ 価値(文化的次元):考え方
A 規範(社会的次元):ルール
B 動員(政治的次元):人・力(権力)・組織
C 便益(経済的次元):物・金・手段
上記の4つの構成要素は@から順番に低次元へと区別されている。
彼によれば集団行動が生じるには、「行為の諸構成素間の損傷として、また、そこから帰結する諸構成素の不適切なはたらきとして」の定義されるところの「ストレーン(緊張)」が発生していなければならないとしている。
例えば、野球チームという特定の集団を例に挙げるならば、連敗が続くとする。その負けの要因を練習不足や道具(便益)と考える。この次元では対処が比較的安易である。次にその要因を監督、もしくはメンバー(動員)等とし、さらには野球自体のルール(規範)さえも否定し、野球をやめる(価値)ことになる。
少々大げさではあるが、このように「価値」や「規範」の高次元のレベルに至るまでの到達過程には、各次元間の矛盾により生じる。「価値」とは、その者の諸対象に対する考え方であり、それぞれ独自性をもつ。「規範」とは、社会において円滑な行動を可能にするための互いの約束事である。
それらの高次元なレベルに至るには、社会の矛盾に対する強いストレーンが作用しており、また最も普遍的な問題に対するものといえる。またスメルサーは、集合行動をタイプ別に分類している。その分類は後に記述するが、どのタイプにも共通する事は「信念」に依存している。では、どのような要素を含みながら集合行動が生じるのであろうか。
U 価値付加過程と決定要素
「価値付加過程」とは経済学の用語である。製品が最終の完成品に至るまでに、次々に価値が付加されていく製品形成過程になぞり、スメルサーはこの用語を使用している。次に挙げる決定要素を@から順番に結合する事が、「集合行動」の生じる条件であり、その過程を「価値付加過程」と呼ぶ。
@構造的誘発性:社会行動のそれ自体が抱える構造的な問題。社会構造自体に矛盾や社会のゆがみがなければ集合行動は生じる事はなく、「構造的誘発性」は集合行動の前提条件となる。
A構造的緊張(ストレーン):構造が主体にもたらす不安・不満・剥奪・葛藤など。社会構造の矛盾が不安等に変換され、運動への具体的要素が明確になる。
B一般化された信念:ストレーンを解消する一般的な観念の生成。抱える問題に対し、「何が悪いのか」「どうすればよいのか」などの解決への普遍的な概念が生じる。「一般化された信念は」集合行動の類型を見るときに重要なポイントとなる。
Cきっかけ要因:信念を行動(実体)化に誘導する状況の微動。人間は諸行動を起こそうとするときに、何らかのきっかけを必要とする。外的な要因。
D行動への動員:信念の実現に向け共感する人々の動員。「行動への動員」は最終的な段階の決定要素であり、これが結びつくことによって「集合行動」の発生をみる。
上記の@からDまでの順序をたどり集合行動は発生するが、「一般化された信念」は次に述べる集合行動の類型を見るときに特に重要となる。どのような信念のもとにどのような行動を起こすのか、信念の違いにより集合行動も変化する。
V 集合行動の類型
スメルサーは一般的な信念のもとに、集合行動を5つに分類している。
@ ヒステリー的信念に基づく集合的逃走(パニック)
この信念には一般的な要素である「不安」と特定的な要素である「恐怖」が含まれる。突然発生した予期しない恐怖で、抵抗不可能なものであり、多くの人々が同時にそれに影響される状態の事である。
パニックが生じるには危機からの脱出路の限定、あるいは、閉ざされつつあるという状況下にある。完全に隔離された状況、あるいは開放的な状況においてはパニックは生じず、「構造的誘発性」が条件となる。
A 積極的な願望充足の信念に基づく行為への動員(クレーズ)
この定義に当てはまる行動は様々である。経済的な領域での投機ブームや政治敵領域におけるバンドワゴン現象、さらには、表現的な領域における流行や宗教領域での信仰復興運動などが含まれる。
B 敵対信念のもとでの行為への動員(敵意噴出行動)
敵意噴出は、金融パニックが発生した後や災害の後などの混乱した状態に連続して起こりやすい。この行動の参加者は、特定の個人あるいは集団を問題の唯一の有責主体にして、それらに敵意を表出する。
C 規範志向運動
社会運動は集団行動に分類しないことが多いが、スメルサーは二種類の社会運動を含めている。その一つが「規範志向運動」であり、一般化された信念の名において、規範を復興し、防衛し、変革し、創造しようとする試みである。次に挙げる「価値志向運動」が社会の包括的な変革を求めるものに対し、ここでは、システム内での所与の変革を求め、多岐的な構造的ストレーンから生じる。
D 価値志向運動
これは「一般化された信念の名において、価値を復興、防衛、変容、創造しようとする集団的な企て」と定義される。中世ヨーロッパにおける十字軍や諸革命、日本においては明治維新などの革命・改革などに当てはまり、根本的な価値を前提に「社会全体を包括的に変革」する運動である。
W まとめ
人間は、地球上で最も複雑な社会生活を営む生物と言えるが、その社会集団の規模・種類は実に多岐にわたる。
そうした社会集団の中で円滑な人間関係を築くにあたり、様々な面で苦労していることは、日頃の経験からも明白である。このように、価値観や感性の異なる人あるいは集団の相互間にみられる意識的かつ自発的な行為とは対照的に、集団行動の中で個々人に生まれた心情が画一的で受動的な行動を引き起こすといった例も多くみられる。集団そのものが集団としての意志を持ち、その構成員たる個人に何らかの形で働きかけているように見える。
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