日本に対する怒りの輸出に失敗した中国
ウォール・ストリート・ジャーナル 2月18日(火)9時38分配信
ケリー米国務長官が先週、北京を訪問したとき、中国は第2次世界大戦時の歴史を取り繕うとする日本の姿勢に米国が不快感を表明するのを見たいと考えていた。そこで、中国の外交官は前例のない広報作戦に打って出た。論説やテレビインタビューで、過去の侵略について日本に責任をとらせる必要があると訴えた。
歴史問題に関する中国の外交官の主張には説得力があった。しかし、彼らのメッセージに米国、特に米国の議会が耳を傾けることはなかった。米国が義憤に駆られて中国の肩を持つことがなかったことからもわかるように、自己主張を強める中国に対する米国の懸念を払拭するのは非常に難しい。
中国政府が日本に対して抱いている不満は正当なものだ。ドイツのアンゲラ・メルケル首相がナチスによるユダヤ人虐殺を軽視したり、米国の政治家が主人と性的関係を持つよう強要された奴隷を売春婦と呼んだりすることは考えられないだろう。しかし、著名な日本の政治家たちは最近、何度もこれに等しい発言をしている。
安倍晋三首相は昨年、侵略の定義は定まっていないと述べ、第2次世界大戦中の侵略に対する過去の謝罪を撤回するかのような態度を見せた。安倍首相はいわゆる「慰安婦」――戦時中に日本兵に奉仕させられた約20万人の性的奴隷で、その多くが中国や朝鮮半島からの人々だった――が強制された証拠はないと主張している。これに対して、性的奴隷として奉仕するために誘拐された女性たちは首相の主張に異議を唱える。
一方、日本には、1937年の「南京大虐殺」――日本兵が中国の民間人を強姦したり、拷問にかけたり、虐殺した事件――は起きなかったとの主張を試みる政治家もいる。
コーネル大学教授で東アジアの国際関係の専門家、Xu Xin氏は日本の第2次世界大戦参戦をめぐる日本国民の感情を「複雑」と表現した。Xu教授は「(日本では)国家主義的な感情が非常に強いといえる。彼らは自分たちがいろいろな意味でドイツとは違うと考えているようだ」と語った。
中国の問題は、経済的にも政治的にも軍事的にも中国の影響力が高まるなか、米国の政治家たちが領土をめぐる中国の強まる野心への最善の対応策の模索にばかり気を取られていることだ。
昨年11月、中国が東シナ海上空に防空識別圏を設定すると、米政府は危機感を募らせた。米国の政治家たちは南シナ海での中国の領有権の主張――中国は南シナ海のほとんど全ての領有権を主張している――にも悩まされてきた。中国の主張は漁業から地域の安定、考古学の調査に至るまでありとあらゆるものに影響を与えている。
米政府関係者の発言を見れば、米国が厳しい態度をとる原因が中国の最近の動きにあることがわかる。
2012年9月、下院外交委員会の委員長だったイリアナ・ロス=レイティネン議員(共和党、フロリダ州)は中国が「近隣諸国に対していじめっ子のように振る舞っている。中国は南シナ海のあちらこちらで好戦的な態度と敵意を強めている」と発言した。
下院軍事委員会の海軍力・投入戦力小委員会の委員長を務めるランディ・フォーブス議員(共和党、バージニア州)は先月、議会の公聴会で「中国の領有権主張と、さまざまな軍事的強制力に訴えて(アジア)地域の現状を変更しようする同国の姿勢を一切容認してはいけないと考える」と述べている。
米議会は日本に対する中国の不満をほぼ無視する一方で、韓国系米国人団体からの陳情や日本の歴史健忘をめぐる韓国政府の度重なる非難にははるかに敏感に反応している。議会は先月、ケリー国務長官に日本との協議で慰安婦問題を取り上げるよう促す文言を一括歳出法案に盛り込み、オバマ大統領はこれに署名した。これに続いて、マイク・ホンダ下院議員(民主党、カリフォルニア州)は安倍首相がかつて、「慰安婦」を単なる「売春婦」と見なしていたと指摘する書簡をケリー長官に送付した。
他の議員もこれに同調している。ジェラルド・コノリー下院議員(民主党、バージニア州)は先月、議会の公聴会で「安倍首相が同地域で政治的な指導力だけでなく、道徳的な指導力を発揮したいと思うなら、特に韓国に関して第2次世界大戦という過去の争いにおける日本の罪を認めることがあるとすれば、役に立つかもしれない」と発言している。
韓国の苦しみが強調されたおかげで、日本の修正主義が注目されることになったが、米国での中国の広報活動に課題があることも浮き彫りになった。中国は第2次世界大戦中、計り知れない苦しみを味わった。戦時中の罪の全責任を引き受けようとしない日本を非難する権利は韓国だけでなく中国にもある。しかし、中国は露骨なやり方で領有権を主張している上、米国内では、人権を侵害したり、為替を操作したり、米国の知的財産権を侵害したり、米国に対してサイバー・スパイを働く国、というイメージがぬぐえず、中国が歴史問題で共感を得ようとしても、こうした要因が邪魔している。
中国は防空識別圏や南シナ海での活動をめぐる米国の懸念を直ちに否定したが、今のところ、役に立ってない。今月初めに東アジア担当のダニエル・ラッセル国務次官補が議会の公聴会で、中国が南シナ海で主張する領有権の適法性に異論を唱えると、中国外務省はラッセル氏の発言を「無責任」だとする声明を発表し、中国は国家の安全を守るために「適切と判断するいかなる措置」も講じる権利を有しているとの見方を示した。
歴史をめぐる中国の不満がいかに正当なものであっても、米国が日本を非難しないのは、中国が近隣諸国をいじめる独裁国家で、アジア太平洋地域を仕切る米国の指導力に深刻な脅威をもたらしていると広く認識されているためだ。
日本がどれほど悔い改めてもこの認識を拭い去ることはできない。
(Ying Ma氏は「Chinese Girl in the Ghetto(ゲットーの中の中国人少女)」の著者で、香港の公共放送局、香港電台で「China Takes Over the World(中国が世界を征服する)」の司会を務める。ツイッターは@gztoghetto)
最終更新:2月18日(火)9時38分
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