「フジ三太郎」読者の声から(22) 「ジョン・ウェインはなぜ死んだか」

2014/2/17 19:03

   今回の主役はジョン・ウェインです。「ミスター・アメリカ」とも称された、ハリウッドを代表する大スター。「駅馬車」「黄色いリボン」「静かなる男」など数々の名作であまりにも有名です。1979年、胃がんのため72歳で亡くなったときは、全米のあらゆる新聞が、彼の死を一面トップで報じたそうです。

   それから3年後、日本で謎めいたタイトルの本が出版されました。広瀬隆著『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』(文芸春秋)です。三太郎も読んでみて何か考えるところがあったようです。新聞掲載は昭和58(1983)年、J-CASTでは2014年1月21日の公開です。

ネバダ核実験場の近くで長期ロケ

   1コマ目。「ネバダ核実験1951~1958」というタイトル。山の向こうで何かが爆発し、そこから立ち上がるキノコ雲を、馬に乗ったカウボーイが「何だろう?」といぶかりながら見つめています。2コマ目は近くのロケ隊の撮影風景です。インディアンと騎兵隊が戦っています。背景に台形の岩山。ジョン・フォード監督の西部劇でおなじみのシーンです。

   3コマ目は一転、「ロケに加わった故人」のリストです。ゲーリー・クーパー、ロバート・テイラー、スティーブ・マックイーン、スーザン・ヘイワード、ジョン・ウエィン、ヘンリー・フォンダなど10人の名が並んでいます。最後に「その他多数」とも。死因はいずれも「がん」でした。

   どうやらネバダ核実験場の近くでロケをしたことがあるハリウッド俳優が、次々とがんで死んでいるということを示唆しているようです。これは、前年末に刊行された広瀬隆氏の『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』に書かれていました。その本を読んでショックを受けた三太郎は4コマ目で、トッピな行動に出ました。この本を当時の中曽根首相に献呈したのです。首相も読んでほしいという思いからです。もちろん実際に献呈したわけではなく、あくまで作品の中での話ですが。

   この漫画の4年前にはスリーマイル島の原発事故がありました。3年後の86年にはチェルノブイリ原発事故が起きます。そして2011年の福島原発事故。いまだに収束しません。そんなこともあって、J-CASTにも約40のコメントが寄せられ、議論が沸騰しました。

原発の是非について論争に発展

「撮影当時は放射線(放射能)の危険性というものが一部の人にしか知らされてなかったので、ほとんどの人は死の灰の中にいたことすら知らないで被曝していたと想像します。 福島原発事故による被曝被害が20年、30年後に顕著にあらわれることになったときに知らされる事実というものが、この瞬間にも存在しているのでしょうね」
「今もって福島の人たちは、特に原発のある付近を中心に市外・県外に避難する人も少なくはありません。 とりわけ、放射能汚染にかかった地域の人たちは心ばかりか、身体にもその放射能を浴びている可能性があり、その傷はなかなか癒えるものとは言えません」

   このようにジョン・ウェインの死と福島を重ねる声もあれば、本の内容に疑問を持つコメントも。

「(死んだ)芸能人は、どちらかというと不摂生や喫煙、飲酒が主な原因じゃないの? 規則正しい生活をしていて、喫煙や飲酒も一切せずにネバダ砂漠に長期間にわたって住んでいたというのでもないでしょう。 なんかさ、ガンで死んだら全員核実験の影響と言いたげなのは、おかしいでしょう」
「爆心地でロケしてたわけでもないのに、こじつけにも程がある」

   同時に原発の是非についての議論も沸騰しました。

「反原発派が、安定供給可能で環境にやさしいクリーンエネルギーを提案してくれさえすれば、何時でも寝返る用意があります」
「人間、必然に迫られたら、今の科学技術を結集すれば、代替エネルギーは賄えると思う。実際、代替エネルギーはあっても利権問題で潰され、石油を牛耳る国から、都合のいいように『石油』からのエネルギーしかないという思い込みをさせられている」
「子供みたいな感情論だけで反原発だのなんだのいうのにはいい加減うんざりします」
「いつまで妄言ひねくり回してるの・・・まともに現実の惨事と向き合ってみたら?」

   そして再びフクイチに戻ってこんな怒りの声も。

「フクシマ第一周辺は、もう二度と住めない。ということは日本の土地が、他国に奪われたのと、実質的には同じ。何十もある日本の原発が、今後二度と、同様の事故を起こさないと、誰が責任を持って言えるのだろう」
「実家がフクイチから100㎞離れているが、 感情的に言うと、原発反対は当たり前。 文句を言うなら、原発近くに土地を買って 住んで下さい」

疫学的手法でアプローチ

   広瀬氏は早稲田大の理工学部卒。医学関係の翻訳をしながら著作活動に入り、この本を出す前年には『原子力発電とはなにか……そのわかりやすい説明』、『東京に原発を!』などの原発関係の本を出しています。

   『ジョン・ウェイン』は「疫学的手法」でアプローチしたといいます。「特定の地域集団、職業集団にかたまって被害者が発見されるケース」で「疫学的に統計を取り、その異常の原因を追跡する」という方法です。ジョン・ウェインらが属していた映画集団を観察し、統計として分析したときに「放射能」が重要な因子として浮上した、というわけです。

   ハリウッド映画人のがん死亡率は10人に4人。全米平均の2倍にもなる。彼らは皆、核実験場があるネバダ州に隣接するユタ州などの砂漠地帯で長期の撮影ロケに参加していたことがある。いつのまにか「死の灰」を浴び、それが、がんに結び付いたのではないか。

   その証拠に、ロケ地周辺の住民や、核実験に関与していた軍人からもがん患者が多発し、訴訟が起きている。ヘビースモーカーというだけではがんにならなかった人が、そこに放射能が加わったため一線を踏み越える、というようなことがあったのではないか…。

   膨大な量の海外資料を読み込んで推理する広瀬氏の手法は、それまでの国内のノンフィクションとは異なり、新手の「データ・ジャーナリズム」の趣がありました。一方で、原子力産業界から「サイエンス・フィクション」という批判も受けました。

今日でも通じる作品

   刊行から30年を経てなお論議を呼ぶ『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』。そしてその本を当時ただちに「フジ三太郎」で取り上げ、首相に読ませようとしたサンペイさん。

「広瀬隆さんの著書の真偽性はさておいて4コマ目を当時の中曽根総理から現総理大臣にすり替えれば今日でも通じる一作ではないでしょうか。」(一世半さん)
「もうこんな風刺漫画みなくなりました。今だったら抗議の嵐でしょうか?余裕がなくなったんでしょうね。目先だけの大騒ぎは多くなりました」(凡夫人さん)

   今回の「コメント賞」は、作品の今日性や風刺力を改めて評価していただいた「一世半」さんと「凡夫人」さんのお二人に差し上げたいと思います。

(J-CAST編集部)

001
なな 2014/2/17 23:32

物語には何らかの伝えたい想いというのが潜んでいて、それを汲み取ることが重要。科学的か論理的な話かは問題じゃない。

ハリウッド俳優の死因がなんだったかは実は問題じゃない。
作者が提起した真意を汲み取るとこができるか、そしていかに考えるかだ。

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