野球観戦の事故:トラブル後絶たず 球団、公平対応に苦慮
毎日新聞 2014年02月16日 17時37分(最終更新 02月17日 00時08分)
阪神甲子園球場(西宮市)でプロ野球を観戦中に折れたバットが顔に当たり傷が残った女性が、球団側に損害賠償を求めた訴訟の判決が先月30日にあり、請求は退けられた。複数のプロ野球球団によると、ファウルボールなどによる負傷事故は日常的にあり、現場でのトラブルは「挙げればきりがない」という。実情を追った。【藤顕一郎】
各球場では、アナウンスや電光掲示板の表示、球場スタッフの警笛などでボールへの注意喚起をしている。それでもスタンドに飛び込んだボールでけがをする観客は1試合に1、2人はいるという。「ボールをよけようとしてバッグのストラップが引っかかって切れた」、「ジュースをこぼした」などの物損トラブルも後を絶たない。
そうしたケースで、各球団がよりどころとしているのが、観客の安全と平穏な試合観戦の確保を目的に日本プロフェッショナル野球組織などが定めた統一ルール「試合観戦契約約款」(約款)だ。打球事故に関し、「球団側は原則責任を負わない」と規定。賠償する場合についても範囲は「治療費等の直接被害に限定する」と定めている。
約款は2005年7月にオーナー会議で承認され、各球団もホームページに掲載している。入場券の裏面にも記載され、「事故があっても『仕方ない』と受け入れる人が増えた」(千葉ロッテマリーンズ)といい、認知は浸透しつつある。
しかし、ある球団の担当者は言う。「約款で各球団と足並みをそろえてはいるが、現場での対応は人対人。ばらつきはある」。ジュースをこぼしたり、手荷物が壊れた観客から「どうしてくれるんだ」と迫られ、物品代を請求されることもしばしば。強引な請求に「裁判で解決しましょうか」と答えたこともあるという。「お客さんの気持ちも分かる。ただ、『言ったもん勝ち』になると、他の観客に不公平になってしまう。リピーターを増やすのが仕事でもあり、落としどころは悩ましい」と対応に苦慮している。
「昔と比べ、真剣に野球を見る観客が減った」と指摘する担当者もいる。最近はゲーム機を手にした子どもやグラウンドに背を向けて話し込む観客も少なくないという。「客席にボールが飛び込まない球場はない、という前提で来場してほしい」。球団側の思いだ。