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| 2012年05月10日(木曜日) |
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らくだの寝床:東海らくご事情 「なごや雷門」淘汰か進化か (愛知)
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◇真打ち制度、ひとまず凍結 風が強い。「これでサクラは散っちゃう」と自宅の窓から外を眺めていた雷門獅篭(しかご)(40)は思った。「花に嵐のたとえもあるぞ」と井伏鱒二が訳した漢詩の一節をつぶやいてみた。「続きは?」と妻が問いかけた。得意げに「さよならだけが人生だ」と続ける獅篭に妻が言った。「師匠がお亡くなりになったわ。今、メールが来たの」。4月7日午前9時半、雷門小福逝去。77歳。 雷門幸福(40)はインドを貧乏旅行中だった。小福の家族からのメールに気付いたのは、世界遺産のエローラ石窟群に到着したときだった。葬儀は46時間30分後。「間に合わないかもしれない」と実家の兄に国際電話をかけた。怒鳴られた。「バカヤロー、絶対に帰って来い!」 小福は名古屋生まれの名古屋育ち。70年代後半から80年代にかけて大須演芸場で高座を務めた。芸能プロダクション経営と落語家の二足のわらじを履いていた。2月から入院していた。がんだった。 小福は19歳で、高座から離れて名古屋で暮らしていた二つ目、初代雷門福助(1901〜86)に入門した。福助は六代目雷門助六(1882〜1934)の弟子。古きよき時代の寄席の風情を感じさせる高座から、親しみを込めて晩年は「落語界のシーラカンス」と呼ばれた。だから「なごや雷門」は江戸雷門の分派だ。 獅篭と幸福は、かつて立川談志門下だった。2002年5月、談志は「やる気が感じられない」と一門の前座6人全員を破門した。1年後、一門復帰を懸けた試験で2人は不合格となった。 「落語家」であり続けるには、身柄を預かってくれる別の師匠を見つける必要があった。それが小福だった。2人は獅篭と幸福の名をもらい、大須演芸場で活動を始めた。それを見た福三(48)が三番弟子として小福に入門した。 小福は「獅篭を真打ちとして『なごや雷門』をもり立ててくれ」との言葉を遺(のこ)した。大須演芸場の足立秀夫席亭(78)は「落語家は国家資格じゃないし、名古屋限定で真打ちを名乗ろうが勝手にしてちょう、てなもんだ」と言う。「しかし東西の落語界が認めるか? 客が納得するか? だいたい客が増えるか?」。どうする、なごや雷門。 今月1日、福三が大須演芸場近くで経営する駄菓子バー「チャーリーズ」に一門3人が集まった。「真打ちなあ……。それより俺たち、もっとうまく、面白くならなきゃいけない」と獅篭。幸福も「あいつらは落語家じゃないって悪口もいっぱい言われてるし」とうなずく。「名古屋の人が笑ってくれる落語を演じられれば、ぼくは真打ち制度なんてどうでもいいです」と福三。それぞれの考えを改めて口にし合った。 「どうする、俺たち」と協議する一門。左から幸福、獅篭、福三=名古屋市中区の「チャーリーズ」で1日
「なごや雷門」は落語家じゃない、と公言する落語関係者さえいる。だが、国内で唯一の演芸専門誌「東京かわら版」は、増刊号として定期刊行する「寄席芸人写真名鑑」に「なごや雷門」の全員を掲載している。佐藤友美編集人は「大須演芸場という寄席の定席で活動なさっている以上、わたしたち編集部は落語家という認識を持っています」と話す。 「師匠の考えだけど」と一門総領の獅篭が提案した。「今は真打ち制度を棚上げしよう。制度を取り入れるかどうか。今後の俺たちを聴いてくれるお客さんの判断も知りたいしな」。真打ち制度、ひとまず凍結。これがこの日の結論だった。 世界市場とは別の独自の技術で進化を遂げる日本製の携帯電話は、多くの生物が独自の進化を遂げる「ガラパゴス諸島」になぞらえ「ガラパゴスケータイ」と呼ばれる。初代福助が「シーラカンス」なら、子孫たちは東西の落語会と異なる「ガラパゴス」でいいかもしれない。淘汰(とうた)されるか、突然の進化を遂げるか。それは当人たちのこれから次第。【尾崎稔裕】 ……………………………………………………………………………………………………… ……………………………………………………………………………………………………… ◇笑席案内 <1>日時<2>場所<3>演者<4>チケット<5>問い合わせ ◇桂文我独演会 <1>30日18時半<2>豊橋市駅前文化ホール<4>前2500円、当3000円<5>桂文我の会事務局電話090・1414・9883 ◇小牧落語を聴く会「柳家三三ひとり会」 <1>6月9日14時<2>JA尾張中央小牧支店コミュニティーセンター(小牧市小牧)<4>1500円<5>同会・片岡さん0568・79・5020 ◇桃月庵白酒独演会 <1>6月12日19時<2>愛知県芸術劇場小ホール(名古屋市東区東桜)<4>前2700円、当3000円<5>はじめ亭しげた電話090・1455・1910 ◇立川談春独演会 <1>6月15日19時<2>ハートフルホール(豊川市御津文化会館)<4>前3000円、当3500円<5>同ホール電話0533・76・3720 ◇第14回毎日落語会 立川談笑独演会「談笑 DE SHOW3」 <1>6月16日18時<2>今池ガスホール(名古屋市千種区)<4>3500円<5>毎日文化センター落語係電話052・581・1521 |
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