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ソチ五輪 現地リポート

ジャンプ葛西 新たな伝説

2月16日 21時30分

佐藤滋記者

ソチオリンピック、スキー、ジャンプ男子のラージヒルで葛西紀明選手が銀メダルを獲得しました。
長く世界のトップで戦い続け、海外で「レジェンド」とたたえられている41歳、葛西選手。
新たな「伝説」が生まれた戦いと団体戦での金メダルに向けた展望についてソチオリンピック取材班の佐藤滋記者が解説します。

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“天にも昇る”表彰台

「ノリアキ・カサイ」とアナウンスされて花束を渡される表彰台に上った葛西選手。
大きくジャンプしながら、ぐっと握った拳をソチの夜空に突き上げました。
初出場の1992年アルベールビル大会から22年。
願い続けて来た個人での表彰台に立ったことを葛西選手はインタビューで「もう天に昇るような気持ちでした。最高でした」と話し、満面の笑みを浮かべました。

“熱い気持ち”と“冷静な判断”

葛西選手は「熱い気持ち」でソチに入ってきました。
ソチの空港では「金メダルを取るために夢を追ってきたので、やり遂げられるように迷うことなく強気でいきたい」と口にしました。
今シーズン、好調を続け、現在ワールドカップ総合3位。
先月のワールドカップで史上最年長となる41歳7か月で優勝を果たし、7回目のオリンピックがメダル獲得の最大のチャンスととらえていました。
一方で、「冷静な判断」も持ち合わせていました。
ラージヒルの6日前に行われたノーマルヒル。8位だった葛西選手は、着地の衝撃で腰を痛めてしまいました。
不安を抱えながら、どのようにメダル獲得につなげるのか。
ラージヒル前日の予選。
葛西選手は会場に姿を見せませんでした。
ワールドカップ総合で10位以内の選手は予選を免除されているため、この日、ジャンプを飛ぶ必要はありません。
予選免除の海外選手の多くが最後までジャンプ台の感触を確かめようとするなか、葛西選手は、「休養」という選択をしたのです。

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葛西選手はソチのジャンプ台の特徴についてラージヒルは、「120メートルを越えると傾斜が急激に『平ら』に近くなり着地での衝撃が大きい」と話していました。
公式練習と予選を合わせてソチのラージヒルを飛ぶ機会は3日間ありましたが、葛西選手は結局、1日しかジャンプ台に来ませんでした。
腰痛という厳しい状況の中での大一番。
過去6回のオリンピックを経験したベテランらしく、自分の力とコンディションをしっかりと把握し、冷静に迎えようとしていました。

勝敗分けた“着地”

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そして決戦の日。
念願のメダルを獲得しましたが頻繁に口にしてきた「金メダル」には届きませんでした。
その差は、意識を強めていたはずの「着地」でした。

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銀メダルの葛西選手と、金メダルのポーランド、カミル・ストッフ選手との合計得点の差は、僅か1.3でした。
飛距離に換算すると1メートルありません。
2人の得点を細かく見てみますと飛距離は、1回目が同じ139メートル。
2回目は葛西選手が1メートル遠くまで飛んだので得点は1.8上回りました。
また、得点化される1つ、スタート台の高さは2回とも同じで、風の有利、不利を表す得点では葛西選手が2回の合計で1.1低い得点でした。
ここまででは0.7、葛西選手が勝っています。
ただ、1番大きく影響したのが飛型点でした。
飛型点は、2回の合計で2.0、ストッフ選手が上回りました。
着地をしっかり決めたストッフ選手が高得点を得たことが大きな要因でした。

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これについて葛西選手は試合後、「着地はちょっとだめでした。腰を少し痛めていたので、着地には不安がありました。着地の差で1.5点くらい及ばなかったところが金メダルに届かなかったところです」と興奮冷めやらない試合直後にもかかわらず、冷静に分析していました。

海外選手の称賛

惜しくも銀メダルだった葛西選手でしたが、同じ表彰台にのぼった海外選手からは称賛が相次ぎました。

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金メダルの26歳、ストッフ選手は「すばらしいし、驚いている。すごい挑戦者だと思う」とたたえました。

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また、銅メダルを獲得した21歳のスロベニアのペテル・プレヴツ選手は「偉大な選手だ。私が生まれた時に葛西選手はすでにワールドカップで戦っていた。私はこれから葛西選手のように息の長い選手として戦っていきたい。葛西選手は私の将来の目標だ」と話していました。

夢の実現へ“努力は裏切らない”

41歳で最高の成績を収めた葛西選手。
日本が金メダルを獲得した長野オリンピックの団体メンバーに選ばれなかった悔しさ。たび重なるケガなど、幾多の困難がありました。
こうした日々を振り返って葛西選手は「何回もオリンピックに出て何回も挫折しそうになったが、あきらめずに自分の夢を追い続けてきて良かった。努力は裏切らないということ、続けて頑張れば自分の夢がかなうということが証明されたんじゃないかなと思う」と胸を張っていました。

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真の“伝説”は団体“金”で

葛西選手の銀メダルは個人では初めて。
41歳でのメダルは、冬のオリンピックの日本人では最年長。
そして日本ジャンプ陣は長野大会以来のメダルと、まさに「記録づくめ」でした。
葛西選手の活躍で2日後の団体に向けても弾みがつきます。
葛西選手が2回目のジャンプを終えた直後、チームの後輩たちが葛西選手のもとに駆け寄り、祝福しました。

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それは16年前の長野オリンピックのジャンプ団体で日本が金メダルを獲得した直後の光景に似ているように感じました。
葛西選手のメダルについて竹内択選手は「自分も追い求めるものがメダルなので、残っている試合に向けて調整したい」と話し、伊東大貴選手は「日本チームとしてうれしかった」と話しました。
また、年齢が葛西選手の半分にも満たない20歳、初出場の清水礼留飛選手は「非常に感動しました。年齢の差が倍以上ある先輩がこうして一生懸命頑張ってメダルを取るのは刺激になるし追いつけるように頑張ります」と目を輝かせていました。
試合後の葛西選手は「銀メダルで新たなレジェンドができたのでは」という質問に対し、「まだです。金メダルを取らないとレジェンドとは呼べないでしょう。団体戦はみんなで力を合わせて金メダルを狙いたい」と話しました。

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葛西選手だけでなく日本のジャンプ陣にとっても新たな「伝説」を作るために。
ソチでの「日の丸飛行隊」の活躍に期待が膨らみます。