2014年02月17日

ORIみたいな論文不正告発の公的窓口があってもいいと思う

 いちいち例を挙げる事はしないけれど、ここ数年、かなり重大な論文不正が相次いで報告されているように思う。こうした事例の経過を見るにつけ、気に掛かるのは、怪文書に近いようなブログエントリーや週刊誌などのマスコミへのリークをきっかけとして問題が明らかになることが多いことだ。

 捏造が悪しきことであることは明白だけれど、あら探しのような捏造探しも良い行動とは思えない。科学とは知見を提唱し、批判と検証を繰り返しながら積み重ねていく知的活動だ。私達は巨人の肩に立つ小人なのである(参考)。捏造探しとはこうした科学的活動を根本から否定する行動であり、とても悲しい気分になる。科学者の良心を信じていたい。

 とはいうものの、万が一捏造を見つけてしまった場合、見過ごす訳にいかないのも現実。そして、日本で論文不正を告発するには上述の通り、怪文書のようなブログやマスコミを使うしかないのが現状だ。いわゆる私刑だ。また論文不正の調査やその後の措置も、所属機関の裁量に任せてしまっていることが多い。第三者による客観的な評価がきちんとなされているどうかもはっきりしない。

 アメリカでは政府自ら、こうした論文不正に対して早い段階から取り組んでいて、Office of Research Integrity(ORI)という政府機関(参考)が1992年に設立され、アメリカ国内で行われる公衆衛生関連の研究の公正性に関わっている。このエントリーではORIの話を少ししたい。

Office of Research Integrityとは


 ORIのサイトによると、1981年に研究不正が公聴会の議題となったことをきっかけに研究不正がアメリカで社会問題となり、数多くの報告書が報告されるようになったことを受け、1989年にアメリカ公衆衛生局はOffice of Scientific Integrity(OSI)とOffice of Scientific Integrity Review(OSIR)を設置。その3年後の1992年に、OSIとOSIRが統合され、ORIが設立されたとのこと(参考)。

 ORIは保健福祉長官に代わって、アメリカ公衆衛生局関係の研究活動の審査やモニタリングを行っている機関だ。例えば、NIHのgrantによって支援されている研究は皆ORIの調査対象となりうる。ただし、食品や医薬品行政の研究については、FDA(The Food and Drug Administration)が担当しているので、守備範囲ではないらしい。

 → Home | ORI - The Office of Research Integrity

ORIの主な活動


 Wikipedia(参考)によると、ORIの主な活動は以下の通り。
  • 研究不正の発見・調査・防止に関する政策・手順・規則の作成
  • 各研究機関による研究不正調査の審査やモニタリング
  • Assistant Secretary for Healthに対して、不正発見と管理行為の推奨
  • Office of General Counselが不正事例を報告する際の補佐
  • 研究不正疑惑に対応しなくてはならない研究機関への技術的補佐
  • 責任ある研究活動、研究の公正さの推進、研究不正の防止、研究不正疑惑への対処の啓蒙
  • 研究不正、研究の公正さ、不正防止、HHSの政策向上のための基礎知識を作るための政策分析・評価・調査
  • 組織の保証維持、内部告発者への報復対処、所内及び所外の政策手順の承認といった計画の管理


日本版ORIがあるといいと思う


 以上の箇条書きから分かるように、ORIは研究不正調査や防止に関する啓蒙活動を行っている機関だけれど、それと同時に研究不正の告発窓口となっていて、その調査事例は機関誌だけでなく、Webでも公開されている(参考)。

 正直なところ、(性善説を信じたい)研究者の立場から言うと、こういう機関がある事自体が解せないのだけれど、キレイ事ばかり言っていられないのが現実だ。

 日本においても、内部告発者の匿名性を保証しながら、有識者の第三者によって、論文不正を調査する機関があってもいいのではないだろうか。そして調査結果を全て公開すればいい。少なくとも、ブログでの怪文書やマスコミによって作られる空気によって裁かれるよりも民主的であると思う。安倍政権は日本版NIHの設立を目指していたけれど、日本版NIHと同じぐらい、日本版ORIがあった方がいいと思う。

 ちなみに、ORIはOffice of Research Integrityの略だけれど、Integrityには英英辞典によると、
  1. the quality of being honest and having strong moral principles
  2. the state of being whole and undivided: upholding territorial integrity and national soverignty

 という2つの意味がある。

 ここでの主な意味は1になると思うんだけど、2の意味合いも含まれているのでは?と個人的に思う。政治の中に科学が取り込まれ、積極的に政策に反映される事もORIの存在意義なのかもしれない。日本でもORIのように政治が今よりも密接に科学と関わっていれば、科学と関わる行政問題(例:原子力発電所など)も今とはまた違ったものになっていたかもしれない。

参考


 以下の本は、主にヤン・ヘンドリック・シェーン(参考)について書かれている本だけれど、ORIや論文不正についての一般的な背景もよく書かれているので、おすすめ。

論文捏造 (中公新書ラクレ)
村松 秀
中央公論新社
売り上げランキング: 12,278

 → Pursuing Big Oceans : 書評:「論文捏造(村松秀)」 - livedoor Blog(ブログ)

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:

コメントする