はじめまして。
UXデザインを担当しているアンダーソンです。
この記事では、皆さんにゲーム開発の中に「Lean UX」のプロセスを取り込むことによって、開発がどのように効率アップするかを2回に渡って話したいと思います。今回は「Lean UX」とは何かを説明し、次回にLean UXのプロセスをモバイルゲーム開発で行った事例を紹介します。
Lean UXとは?
「Lean UX」とは、Lean = 「無駄なく、スマート」とUX = 「User Experience (ユーザー体験)」の二つの言葉を組み合わせた開発のプロセスの名称です。
Lean開発方法とは、1980年代にマサチューセッツ工科大学の二人の研究者、WomackとJonesが作りました。二人はトヨタ生産方式を研究し、体系化した「リーン生産方式」を生み出しました。トヨタ生産方式とは、根本にある課題に限定して取り組むことで、生産作業から無駄を排除し、その結果トータルコストを減らすプロセスです。
ITで行われるLean開発もこれと同じく、組織と開発の中での無駄を排除しようというプロセスのことを指します。
では、その「Lean開発」に「UX」を取り込むとどうなるのでしょうか。
サービスの成功は、「お客さま」と「会社」のニーズが合った時に起きる現象と言えます。お客さまは自分にとって価値が無いものを使いません。しかし開発者が想定する「価値」は、「お客さま」にフィードバックを頂くまでは、それが実際に価値があるかは分かりません。そこで、お客さまの「体験」を測る「UX」プロセスが重要となります。より早くお客さまにサービスを試してもらい、その体験を正しく測定して開発の方向性を定めていくことは、その後の「無駄な開発」を減らすことにつながります。
つまり、サービスの開発をLeanかつユーザー中心で行うことは、膨大なコスト(費用だけではく、時間)削減になるのです。
Lean UX の4つの特徴 |
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モバイルゲーム開発と「Lean UX」の相性
モバイルゲーム開発になぜUXが大事なのか
UX(ユーザー体験)は、プレイヤーのゲームへのモチベーションに大きな影響を与えます。スマートフォンは、現代では様々な年代・性別・職種の人に使用されています。利用状況(環境、時間)は、様々です。つまり、「モバイルゲームのユーザー体験」は、ゲームそのものだけではなく、プレイヤーのライフスタイル・遊ぶ環境・遊ぶタイミングが強く体験に影響します。
そのような可変な状態の中にある「ユーザー体験」を測り、分析するのは複雑かつ重要な作業となります。
モバイルゲーム開発をアジャイルからLeanへ
モバイルゲームは、リリース前の初期開発期間が非常に短いため、リリース後にも継続的な改修が必要です。リリース後に適切なテコ入れをすばやく行うことの積み重ねが、ゲームの成否に強く関わってきます。そのため、アジャイル開発をされている会社が多いですが、アジャイル開発をさらに効率良くするのがLeanプロセスです。
Lean UXの開発プロセスは、アジャイルで使用されているPDCAサイクルの各ステップに、Lean UX的な要素を加えたものだといえます。つまり、Lean UXの軸である「スピーディーな開発」と「ユーザーのみが評価者になれる」という条件をPDCAに加えることで、次のようなLean UX のプロセスが出来るのです。
PDCA* | Lean UX |
Plan 従来の実績や将来の予測などをもとにして業務計画を作成する |
仮説を作成 すぐに検証可能な「ビジネスの成功とつながる仮説」を作成 |
Do 計画に沿って業務を行う |
MVP(minimal viable product)の開発 その仮説を検証することに特化した、最短で実施できるテストを作成 |
Check 業務の実施が計画に沿っているかどうかを確認する |
仮説の検証 仮説をターゲットユーザーで検証する (成功・不成功だけではなく、何故成功したかも絶対に確かめる) |
Act 実施が計画に沿っていない部分を調べて処置をする |
ユーザーが行った行動の分析・仮説の修正 検証結果の分析 クリティカルポイントを洗い出しプライオリティーをつける (10点程のポイントがベスト) |
*PDCAサイクルwikipediaより
PDCAサイクルをこのようにLeanにすることによって、よりシンプルで分かりやすい開発プロセスとなります。最初はPDCAとLean UXで同じ事を行っているように見えても、開発目的を「機能の開発」→「ゴール」にすることによって、コミュニケーションの間に出てくる議論、問題への取り組みが、よりgoal orientedでユーザー目線になり、より早くユーザーニーズを正しく把握できるようになります。
モバイルゲームとユーザーの関係性を「Lean」で見る場合
Lean UXのプロセスは、「価値の検証」を行うプロセスですが、モバイルゲームの「価値」はなんでしょう。価値を検証するには、「誰に対して」、ゲームのどこが「価値」になるかを意識することが必要です。
ここで大事なのは、プロダクトに関わるメンバー全員が、プロダクトの価値に対し「同じ認識」を持つことです。認識がズレるとプロダクトの目的を見失う確率が高まりますし、それを改善するための建設的議論も行えません。Leanではなくなります。メンバー全員が同じ認識を持つためには、プロダクトの価値の可視化を行うことが最も効果的でしょう。しかし、メンバー全員が分厚い資料に目を通し、同じ認識を共有することは、非効率で困難です。
そこで価値を「ぱっとみても分かるように」可視化する方法として、「Lean Canvas」を紹介したいと思います。
プロダクトの価値のマッピング(Lean Canvasより)
Lean Canvasとは、サービス開発について書かれた、エリック・リース著『リーン・スタートアップ』(日経BP社、2012年)で世界的に有名になった、サービスバリューを可視化するためのテンプレートです。Lean Canvasの大きな強みは、サービスの企画書の内容が、お客さま視点とビジネス視点によって1ページに説明されることです。
もしLean Canvasを完全に埋めることが難しい場合、Lean Canvasからユーザー視点の部分のみ切り抜き、5W1Hで図式化した形で考えることもできます。
Lean Canvasをユーザー視点のストーリーにした場合
- 誰が(who? どういうライフスタイルの人?)
- 何を考えて(what? どういう課題やニーズが発生している?)
- いつ(where, when? どういうタイミングでプロダクトに接触する?)
- 何故(why? 何故そのプロダクトを使いたいと思う?)
- 良いと思って(what? どうニーズや課題を解決して)
- 決済する(how? 価値を感じる)
このように改めて価値の検証を行うと、モバイルで大事な「遊ぶ場所」や、Free-to-Playゲームに大事な「コンバージョンのポイント」が、一つの流れで考えられます。相互関係が強い部分を、より早く分析し、より早くユーザーに提供できる為のお助けをするプロセス、それがLean UXです。
まとめ
Lean UX 思考をモバイルゲーム開発に結びつけると、それまで見つけにくかったプロダクトの価値が可視化され、開発メンバーが共通認識を持つことで、プロダクトのより大きな可能性が見えてきます。Lean UXは、ビジネスサイドのフォーカスを鋭くし、無駄な開発を減らします。その結果、ユーザーニーズに合った価値あるゲームを、より早くお客さまに届けることができるのです。
次回は、一つのLean UX サイクルをプロジェクトの中で、どのように進行したかを共有したいと思います。