(2014年2月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
スイスでは2月9日、移民制限の是非を問う国民投票が実施され、賛成票が僅差で反対票を上回った〔AFPBB News〕
スイスほど企業を温かくもてなす国はあまりない。安定した法律や有利な税制が非常に魅力的なため、欧州の人口の1%強しか占めないスイスは、欧州大陸の4大企業のうち3つの企業の本拠地になっている。
さらに、コモディティー(商品)取引大手のグレンコアや消費財メーカーのプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)など数々の大企業、また多くのヘッジファンドがスイスを欧州拠点としている。
そのうえ、柔軟な労働法と教育水準の高い人口を擁することを考えると、経済競争力の世界ランキングでスイスが大抵首位近くに位置するのは驚くには当たらない。
国民投票で相次ぎ企業に厳しい規則
それだけに、実業界のリーダーたちを戸惑わせるようなスイスの最近の決定はなおさら衝撃的だった。最も劇的だったのは、2月9日の出来事だ。スイス企業に深刻な打撃を与える可能性があるとの警告にもかかわらず、スイスはぎりぎりの過半数で欧州連合(EU)からの移民に割り当てを課すことを決定したのだ。
昨年3月には、有権者が世界でも特に厳しいコーポレートガバナンス(企業統治)規則を支持した。11月には、有権者が――最終的には否決したものの――企業の最高幹部の給与の上限を社内で最も収入の少ない従業員の12倍に制限する計画を検討した。また今年は、月間4000スイスフラン(4470ドル)の最低賃金――ほとんどの財務担当取締役を身もだえさせるほど高い数字――を導入するかどうかを投票に付す予定だ。
総合すると、様々な投票は、企業や富に対するスイス国民の態度に根本的な変化があったのではないかという疑問を提起している。
スイスのヨハン・シュナイダー・アマン経済相は12日、長年にわたる企業の行き過ぎた行為がスイス国民と企業エリートとの間の「信頼の破綻」につながり、それが9日の投票にも現われたとの考えを示した。
こうした関係破綻は、金融危機以降、多くの国で見られるようになった。だが、極めて保守的な地方部とジェネーブやバーゼル、チューリッヒといったより進歩的な都市部との間の溝が特に目立つスイスでは、この信頼関係の破綻は古い断層が再浮上していることも意味している。
「最近変化したことは何かと言えば、スイスの政治において、環境とスイスの生活様式を守ることに力を入れる緑の保守主義の潮流が強まったことだ」とソトモ研究所のミハエル・ヘルマン氏は言う。
「この動きは常に存在したが、概して、かなり循環的なものだった。経済が成長している時期には、今のように、そして1960年代の戦後好況期のように、制約を受けない成長を批判する人々が現れる。だが、景気が減速すると、すぐに弱まる傾向もある」