不摂生がたたって肥満で身動きが取れず、病気の急速な進行を止められない中高年。大阪大の北村亘教授は、大阪のいまをこう例える。

 バブル期の巨大投資失敗のツケで、府市あわせて8兆円の借金がある。歳出を極力抑え、職員の人件費も大胆にカットしたが、それでも財政危機から抜け出すめどがない。

 大きな要因は、急速な高齢化の進行だ。

■次々に白から黒へ

 大阪市では2005年から35年にかけて、65歳以上が1・4倍に増える。高度成長期に大量流入した団塊の世代が一斉に高齢化するからだ。すでに全国トップの生活保護受給世帯はさらに増えるだろう。介護保険施設の大量建設も急務である。

 成長期に整備した道路や水道などのインフラも、次々と老朽化による更新時期を迎える。お金がいくらあっても足りない。

 大都市は長らく、成長の中核だった。地方から人を集め、活発な経済活動で富を生む。その果実をインフラに投資して街の魅力を高め、さらに人や企業を集める――「だから、誰も都市についてまじめに考えてこなかった」と北村教授は指摘する。

 だが成長が止まったいま、すべてがオセロゲームのように白から黒へと暗転し始めている。

 「都市が自律改革を始めない限り、国も地方もいずれ破綻する」。橋下徹・大阪市長が率いる大阪維新の会は、市・府の司令塔を一つにして大阪を再生する「大阪都構想」を掲げた。だが勢いは衰え、「もう都構想は終わりや」と、既成政党はしてやったりの表情だ。

 だが現実は、これで「終わり」ではすまない。

■街中の限界集落

 大阪の後を追うように、まもなく猛スピードで高齢化が進むのが首都圏だ。

 危険な兆候は現れている。都心では高齢者が5割を超える都営住宅が出現。自治会も高齢化し、孤独死防止も難しくなってきた。高齢世帯が多い郊外のマンションも人口減少で買い手がつかず、空き家が増えている。

 これまで高齢化といえば地方の問題だった。だが地域社会が残っている田舎と違い、個人がバラバラに孤立した都会では、高齢者を支える手間やコストは桁違いだ。このままでは財源不足から行政サービスは追いつかず、都会の限界集落があちこちでスラム化する近未来が待っている。大都市が「成長のエンジン」どころか「日本のお荷物」と化す日は絵空事ではない。

 この「今、そこにある危機」は、どれだけの人に認識されているだろう。

 「日本はもう一度、力強く成長できる」。東京五輪の開催決定を受け、安部首相はそう宣言した。関連のインフラ整備に予算がつくとみて、鉄道や道路整備の要望が相次ぐ。

 だが、日本が若く、モノがどんどん売れた時代と同じ投資によって、急速な高齢化で必要になる莫大な資金を稼ぎ出せるわけではない。短期的な、見かけの成長でなく、真の豊かさを問い直す挑戦が欠かせない。

■「お任せ」の先へ

 豊かさにひかれて都市に集った人は今、どうなっているだろう。高齢者は老後が不安で、お金があっても使おうとしない。たくさんの若者が非正規の職しか得られず、不安定な日々を過ごす。正社員も長時間労働に苦しむ。そんな現実に、未来を拓くヒントはないのだろうか。

 慶応大の上山信一教授は、道路などビジネス・インフラへの投資から、人々の安心を生むライフ・インフラへの転換を提案する。例えば人口減で余った公有地を無料で貸し、安価な高齢者施設を充実させる。高齢者はお金を安心して使えるし、若者や主婦の雇用の場にもなる。

 ワーク・ライフ・バランスにも注目したい。長時間労働を見直す企業を支援し、公的な施設に頼らなくても介護や育児ができる社会へ転換すれば、行政の支出を抑えられるだろう。

 住民も変わらねばならない。もう財源不足の行政に「お任せ」では立ちいかない。

 廃工場や空きアパートが目立つ大阪市の北加賀屋地区では、高齢者と若者が空き地で農作業を楽しみながらつながりを深めている。多様な人材がいる大都市では、面白いテーマを設定すれば人が集まる。支え合いながら、「自分たちの地域は自分たちでつくる」意識を共有していく。こんな取り組みを、点から面へと広げることが大切だ。

 今後、アジアの大都市が次々に超高齢化に直面する。トップランナーとして、新しい思考で問題の解決モデルをみつける。そんな夢にかけてみたい。