▼主要各紙は新型の万能細胞「STAP細胞」の作製成功を報じた際、iPS細胞はがん化のリスクがあるなど報道。しかし、山中教授はiPS細胞ができた8年前の技術との誤った比較がなされており、課題は克服していると指摘している。
【読売】 2014/1/30朝刊1面「第3の万能細胞 刺激与え『初期化』 がん化リスク低く」【毎日】 2014/1/30朝刊1面「万能細胞 初の作製 簡単 がん化せず」、同3面「iPS上回る可能性」【朝日】 2014/1/30朝刊1面「刺激だけで新万能細胞」【産経】 2014/1/30朝刊1面「万能細胞 作成簡単な新型」、29面「iPSより『安全』 常識覆す」【日経】 2014/1/30朝刊1面「万能細胞 簡単に作製 理研が新手法」【東京】 2014/1/30朝刊1面「『万能細胞』新手法 iPSより簡易」
《注意報1》2014/2/16 11:10
《追記あり》2014/2/16 18:00
《注意報1》 2014/2/16 11:10
主要各紙は1月30日付朝刊で、理化学研究所発生・再生科学総合センターのチームが新型の万能細胞「STAP細胞」の作製に成功したことを大きく報じた。その際、京都大学の山中伸弥教授が作製した「iPS細胞」と比較した報道が行われ、iPS細胞はがん化の課題・リスクがあり、成功率も低いなどと指摘した。しかし、山中教授は、一連の報道に事実誤認があり、iPS細胞は初めて作製に成功した2006年当時と異なり、がん化や成功率の課題を克服し「全く違う新型の細胞になっているといってよい」と指摘。不安や誤解が広がり、影響は非常に大きいと遺憾を表明している。
毎日新聞はSTAP細胞の初の作製成功を報じた1面で「作製が容易で、人工多能性幹細胞(iPS)細胞で問題になるがん化や染色体への影響も確認されていない」と報道。3面の解説記事でも「iPS細胞は遺伝子などを導入して作製されるため、染色体が傷ついてがん化する危険性があることが大きな課題だった」と指摘した。産経新聞も1面で「iPS細胞は遺伝子操作に伴うがん化のリスクがあり、初期化の成功率も0.2%と低い。これに対し、STAP細胞は、外的な刺激を与えるだけなのでがん化のリスクが低く、初期化成功率も7~9%」と解説。朝日新聞も1面に掲載した万能細胞の比較表でiPS細胞の「欠点」と称し「がん化する危険性がある。作成効率も良くない」と記載した。他の主要紙にも同様の記載があった。
これに対し、山中教授は2月7日テレビ朝日の報道番組に出演し、報道は8年前にiPS細胞ができた当初の技術と誤って比較していると指摘。そして、一部報道によると、山中教授は10日にも京都市内で会見を開き、iPS細胞はがん化のリスクが高いうえ、作製効率が0.1%といった報道は誤解だと説明した。(*) さらに、12日、京都大学iPS細胞研究所のホームページに山中教授の名前で、STAP細胞とiPS細胞を比較した報道に対する見解を発表した。
iPS細胞のがん化リスクについて、山中教授は、2006年発表した最初のiPS細胞では染色体に遺伝子を取り込ませる方法や発がんに関連する遺伝子を使っていたものの、現在は大幅にリスクを低減させる方法に変更し、安全性は動物実験で十分に確認されたと指摘。臨床研究により、安全性の最終確認を行う段階に入っているとしている。他方、STAP細胞は半数以上の細胞が死滅するようなストレスが細胞にかかることもあり、細胞内における遺伝子の状態がどうなっているか、まだ十分にわかっていないとしている。
iPS細胞の作製効率についても、2006年当初は約0.1%だったものの、2009年には20%に上昇させることに成功。iPS細胞は再現性(理論どおりに実験すれば誰でも同じ結果が出ること)と互換性(ES細胞と同じ方法で培養や分化誘導ができること)の高い技術で、世界中に普及しているとしている。
STAP細胞については「細胞の初期化メカニズムに迫る上で、極めて有用」で「未来の医療、たとえば移植に頼らない体内での臓器の再生、失われた四肢の再生などにつながる大きな可能性のある技術」と評価。一方、「人間の細胞で達成された後に、再現性、互換性、安全性、知財について検証される必要がある」と指摘している。
山中教授はテレビ朝日のインタビューで、誤った比較に基づく報道により「iPS細胞技術の実現を心待ちにしている患者や家族にとても大きな不安や誤解を与えた」と非常に大きな悪影響があったとの認識を示し、「とても残念」と遺憾の意を表明。これに対し、古館伊知郎キャスターはiPS細胞ができた8年前の時と比較してしまったこと反省しなければならないと話した。
山中教授はiPS細胞の研究を通じ、「成熟した細胞を多能性細胞に再プログラムできることを発見した」業績を称えられ、2012年ノーベル医学・生理学賞を受賞した。
■「iPS細胞」生みの親、山中伸弥教授に聞く (テレビ朝日 2014/2/7)
■iPS細胞とSTAP幹細胞に関する考察 (京都大学iPS細胞研究所 2014/2/12)
1. iPS細胞におけるがん化リスクの克服とSTAP幹細胞における安全性の現状2006年に発表した最初のiPS細胞においては、樹立にレトロウイルスという染色体に取り込まれる遺伝子導入方法を用い、またc-Mycという発がんに関連する遺伝子を使っていました。しかし、最新の再生医療用iPS細胞の樹立においては、1)遺伝子が一時的に発現し、染色体には取り込まれず消える方法に変更2)c-Mycは発がん性のない因子で置き換えるという2つの工夫によって、大幅にリスクを低減させました。この方法によるiPS細胞の安全性は動物実験で十分に確認されています。その結果として、高橋政代先生(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター)らのiPS細胞を用いた臨床研究が、厚生労働省において認可されるにいたりました。今後は臨床研究により、安全性の最終確認を行っていきます。…(中略)…2. iPS細胞の誘導効率の大幅改善とSTAP幹細胞の誘導効率の現状マウスiPS細胞の作製を発表した2006年の段階では、確かに誘導効率は約0.1%でしたが、2009年には20%まで上昇させることに成功し、山中グループが科学誌 Nature(Hong et al.)に報告しています。また、昨年、イスラエルのグループが因子導入後、7日間ですべての細胞をiPS細胞にしたことをやはりNature(Rais et al.)に報告しています。…(以下、略)
(*) 2月10日の山中教授の記者会見で、指摘された「誤解」の内容は、毎日、産経、東京、日経各紙11日付朝刊が詳しく報じた。他方、読売新聞は報道しておらず、朝日新聞は会見についての報道はあったが「誤解」の内容はほとんど報じていなかった。読売新聞は14日付朝刊で、京都大学iPS細胞研究所のホームページに声明が掲載されたことを報じた。(2014/2/16 18:00 読売新聞14日付報道について追記しました)