なぜ日本は世界で最も高い天然ガスを買わされているのか?

その答えは突き詰めて言えばLNG船の払底にあります。

もちろん、LNGくらいサプライチェイン(商品を顧客まで届ける経路)が大掛かりになってくると、生産、集荷、加工、輸出許可、契約形態、スポット契約の取引市場など、様々な要因が価格形成に影響してきます。

だからLNG船の不足だけが理由ではない。でも、今のボトルネックは、ここにあるのです。

まずLNGとは何か? ということですが、これは液化天然ガス(Liquefied Natural Gas)の頭文字を取ったもので、早い話、冷却した天然ガスです。

なぜ冷却するの? という点については、マイナス162度以下では、気体が液体に変わり、体積が600分の1に縮むからです。

天然ガスは、喩えて言えば、地球のオナラです。そんなもの、運んでいても、嵩張るばかりで捗らないし、爆発するからキケンです。

持ち運びが難しい……この単純な理由から、歴史的に天然ガスは生産地で消費されてきました。

これを確認するため、まず世界の原油生産シェアのグラフを見ます。

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これと世界の原油消費シェアのグラフを比べて下さい。

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言いたい事は、生産国と消費国は、かならずしも一致していないということです。

次に世界の天然ガス生産シェアのグラフを示します。

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これを世界の天然ガス消費シェアのグラフと比較して下さい。

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生産国と消費国が、ほぼ一致していることがわかります。

実際、過去においてはパイプラインを敷設することで消費地に届けるという方法くらいしか有効な運搬方法はありませんでした。

一方、石油はタンカーで簡単に運べるので、どんなに遠い消費地でも問題ありません。実際、ノーベル兄弟が現在のアゼルバイジャンにあるバクー油田で原油を生産し、それを販売する際、船の船倉にタンクを作り、そこへ直接石油を流し込んで運んだのが、世界最初のタンカーだと言われています。1878年のことです。

いま世界の燃料供給シェアを見ると、天然ガスが一番シェアを伸ばすと見られています。

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これは発電の際の効率が良い事、クリーンな燃料であることなどの理由に加えて、シェールガスの発見、輸出インフラが今後整備されること、政策、地政学上の問題などによります。


次に2030年にかけて将来、天然ガスの需要(現在世界で約300bcf/日)がどう伸びるかを見ると、アジアの伸びが顕著だということがわかります。

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これは言いかえれば、生産する場所と消費する場所のミスマッチは、今後、一層大きくなることを意味します。

次にどの需要家の伸びが多いかを見ると、発電所での天然ガスの消費の伸びが最も顕著であることがわかります。

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これは福島第一発電所事故以降、日本で起きたことを思い出して頂ければ、容易に理解できることです。

さて、シェールガスが世界で一番沢山埋蔵されているのは中国だと言われています。しかしこれまでの開発状況を見ると、圧倒的に米国の独壇場となっています。

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これは何故か?

それは「シェールが、そこに眠っている」というだけでは経済的にそれを生産する条件が揃った事にはならないからです。

具体的には地下鉱物の所有権が明快に法律で規定されていること、石油サービス業界のノウハウが蓄積されていること、ハイテク・ドリリングのイノベーションが業者間の切磋琢磨で絶え間なく進んでいる事、水へのアクセス、行政の支援、開発資金の調達力などになります。

中国の場合、とりわけ地下鉱物の所有権に絡む法律が未整備です。また地場産業の競争が欠如しており、ハイテク・ドリリングのノウハウは皆無に近いです。

アルゼンチンの場合、政府は開発に積極的ですし、YPFなどの歴史ある業者はノウハウを持っているのだけれど、市場へのアクセスの面でハンデがあります。

ポーランドの場合、石油サービス産業自体が存在しないので、いきなり高度な生産はできません。

次に今後のLNGの液化キャパシティの追加を見ると、次のようなプロジェクトが発表されています。

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LNGは液化プラントに莫大な先行投資がかかるので、長期契約が主でした。しかし最近はスポット取引市場が出現しています。

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実際、LNG取引全体に占めるスポット取引比率は2000年の5%から現在は32%に増えています。

商社、投資銀行など、スポット取引に流動性を提供するトレーダー達の参入も一部寄与しているのですが、何よりもLNG施設が増えたこと、スポットの積荷を動かすLNG船が増えた事が大きいです。

今後のLNG船の造船計画をLNG基地の処理能力の建設計画と比べて見たのが次のグラフです。

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アメリカから日本や韓国などの需要家へのLNGの出荷は、未だ始まったばかりです。

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いま日本は16ドル/MMbtuで天然ガスを輸入しています。米国の指標銘柄、ヘンリーハブ価格は5ドル前後です。

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LNG船の傭船コストは3ドル/MMbtu程度です。もちろん、これにLNGプラント建設コストが乗っかって来るわけですけど、それを加味してもアメリカで生産されるシェールガスを日本に運んでくるには11から12ドル程度で出来るわけです。

(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack

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