例えば、イスラエルでは、徴兵年齢に達した若者のうち、コンピューター技術に長じたものを選抜し、他の新兵教育とは別個に、完全に自由な環境の下で、創造的能力の発揮やコンピューターソフトの開発などに専従させ、その中から選抜した適格者からサイバー戦部隊を編成している。
選抜に当たり重視される要因は、IT関連の能力はもちろんだが、創造力と忠誠心も問われる。その中でも最も重視されるのは、能力ではなく国家への忠誠心であるとされている。サイバー戦部隊の要員は、一旦裏切った場合の国家の安全保障に与える打撃も大きく、かつ創造力発揮のために自由の保障が不可欠である。
このため、何よりも忠誠心が要求されるということであろう。徴兵されたイスラエルの若者の中でも、最も優秀な者は、これまでは情報関連の部隊に集まったが、いまではサイバー戦部隊に集まっていると言われている。
北朝鮮でも、同様の態勢が小学校の頃から取られており、優秀者は、家族を含め生活費、学費すべてを保障され、コンピューター操作、ソフト開発などに専従しているとのことである。
家族ぐるみで管理下に置かれているということは、家族も万一の場合は人質になるということも意味しているが、そのような特別に養成された専門的人材からなる、サイバー戦部隊が現在では3000人規模になっているとも言われているが、細部は不明である。
2 中国のサイバー空間に対する自己認識
中国のサイバー空間に関する自己認識は、まだまだ遅れているとの見方に立っている。中国のネットユーザー人口は米国の2倍いるが、中国のサイト数は米国の3分の1に過ぎず、米国がサイバー空間を支配しているとし、中国のインターネットの弱点として、以下の3点が挙げられている。
(1)中国のネットユーザー数は、増加しているがその増加率は低下している。例えば、中国のインターネット普及率は、2009年28.9%、2010年34.3%、2011年38.3%、2012年42.1%と伸び率が次第に低下している。
(2)中国国内のインターネットの発展はきわめて不均衡であり、農業地帯、山岳地、内陸などの貧困地域は普及が遅れ、格差がますます拡大している。
(3)インターネットの通信速度はきわめて遅い。例えば、2009年のインターネットの通信速度は、韓国が1位20.4Mbps、日本が2位15.8Mbpsだが、中国は77位1.774Mbpsに過ぎない。
このような、中国のインターネット網の弱点を踏まえて、米国のサイバー戦脅威に対する中国の評価として、以下の点が指摘されている。
米国は9.11まではサイバー戦では防御を重視していたが、9.11以降は攻撃を主に転換した。バラク・オバマ政権は、インターネットによる恫喝を強調し、攻撃の実行を主戦略とし、サイバー司令部を組織、サイバー兵器を大量増加させるなどの措置を取った。
2011年5月には、サイバー攻撃は戦争行為と見なすとし、米国がサイバー攻撃により国家安全保障が脅威を受ければ軍事力を使用すると表明した。また同年5月には、受動防御から積極防御に転換し、巨大なサイバー恫喝能力を構築すると表明している。
米国は「非暴力的政権交代」のため、インターネットを利用してネット専門家を使い最新通信手段を開発し、ネットを通じてメールを流し、みな一箇所に集まり命令に従うよう指示を流した。
このような手法により、イランの選挙後の騒擾などで、米国のサイトは重要な役割を果たした。2009年に米国は、正義感に富んだハッカーを採用して部隊を組織し、6000万ドルの予算をつけ国家安全保障に利用している。