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ホリエモンが聞く。現代の魔法使い、落合陽一の目指す未来とは。その1

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現代の魔法使い、落合陽一が空中に描く未来。

メディアアーティスト、研究者、実業家。様々な顔を持ち、作品と研究を次々と生み出す現代の魔法使い落合陽一氏。「コンピュータグラフィックスのように物理世界を書き換える」そんな彼の描く未来をホリエモンが聞き出した。

ochi5Youtube LINK  → 音響場浮揚デモ映像

参考映像:Three-Dimensional Mid-Air Acoustic Manipulation [Acoustic Levitation] 2013,2014-

堀江貴文(以下、堀江) 落合さんって、魔法使いなんですよね?

落合陽一(以下、落合) そうです。魔法使いを志しております(笑)。魔法みたいに感じられるテクノロジーを自由に駆使することです。たとえば、さきほどお見せした“音響場浮揚”という魔法的な浮遊技術以外にも、たくさんの技術をいろんな切り口で研究しています。今力を入れているのは、空中に映像を映し出せるかというところとか。昔からずっと空中にプロジェクションスクリーンのようなものを作りたいんですよ、夢なんです。

堀江 今だとフォグスクリーン(人工的に発生させた霧に映像を投影するスクリーン)がありますよね。

落合 ありますね。でも、今僕が目指しているのは、一度放出してしまったら制御できないフォグスクリーンのようなものでなくて、もっと自在に制御できるようなものです。いろいろな物体を浮遊させるインターフェースの次は、映像を空中に作れるようになると面白いなって。この辺は去年から継続してやっている研究なので、乞うご期待といったところです。最近では音響浮揚も他の切り口で“液体を液中から非接触でどうやって捕まえられるか”っていうのを考えています。今は、スポイトで水を取って、その水滴を浮かせているんですけど、そうではなくて、音響場で直接液体中から液体を捕まえるということがやりたくて……。

堀江 なるほどね。

落合 それができると、音響浮揚の応用として、空中できれいに水分を蒸発させながら薬剤を混ぜるということや器具を使わない溶液操作ができて、とても精度の高い薬品や、その方法でしかできない素材が作れるようになるんです。もっと身近な例でいうと……、よくバカにされますが、チャーハンとかパラッとさせたい食べ物を作る時に地味に使えるんじゃないかなって(笑)。まあ、これは半分冗談ですけどね。原理を説明するときによく使うんですよ。おいしいチャーハン。

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堀江 空中で保持した状態で、火を入れるわけですよね。

落合 はい。たとえば、鉄やダイヤモンドの粉などの粒子を他の何かと化合させるときにそれらのマクロ的な配列を変えたいことがあるかと思います。そういうところに空中に一定の物理的なポテンシャルのフィールドを作り、物体を持ち上げて操作することで何かに使えないかと思っています。

堀江 たしかに、何かに使えそうですね。

落合 ほかに、やっている研究では、シャボンの膜で作る「コロイドディスプレイ」っていうのがあるんですよ。コロイド溶液(シャボン液など)で作るからコロイドディスプレイ。これは厚さ100nm-1μm程度の透明なシャボン膜が超音波振動します。透明なシャボン玉膜には普段は映像が映らないのですが、そこに映像が映るようになるという仕組みです。今までの液晶ディスプレイとか拡散スクリーンって、反射成分が制御できないんですよね。例えば、アルミの映像が映っているディスプレイを傾けたからといって、画面のアルミのきらめきが変わるわけではない。太陽の下で見ても、部屋の中で見ても同じ見た目です。でも、シャボン膜を高速振動させたディスプレイでは、それができるんです。なぜなら、物体の表面が直接反射特性を変えて映像を映しているので、表面反射自体をある程度コントロールできる。そして、これをスマートフォンに実装できるようになると、例えばiPhoneなどの壁紙をアルミに変えると実際に表面がアルミと同じ光沢を持つようになる。ディスプレイ自体がマテリアルを表現できるようになるんです。おもしろいでしょ。

堀江 でもまだ、シャボンじゃないとできないんですよね。

落合 もしスクリーンとして作るのであれば、表面張力があって、薄くて、ある程度揺れる物体なら多分、大丈夫です。要は細かく揺れれば。

堀江 液晶とかではどうなんですか?

落合 今あるようなディスプレイ技術でいえば、最近では液晶よりも、プラズマディスプレイや有機ELみたいな自発光型のディスプレイに着目しています。液晶と違って、プラズマディスプレイは、個々の素子が直接発光しているので、何かを重ねたりうまく制御したりして、発光の方向をうまくコントロールすると、キラッっていう感じとかが出せるんです。コントラスト比が高く、輝度に急激な偏りがある状態で目の錯覚を使って制御する感じです。そうすると、ゆくゆくは完全に見た目を模倣するディスプレイっていうのが目指せるんです。例えば、もしECサイトで商品画像を拡大すると同時に反射状態を再現していて「あ、この毛皮こういう感じの毛なんだ」とか「木の椅子といってもテカリのあるタイプか」っていうのが分かったりするんじゃないかなと考えられますね。今のコンピュータの世界は、ひどく材質感が抜け落ちてるんです。デジタルの世界に質感がたりない。僕は、それをどうやって補完するかにすごく興味があるんです。見た目でいえばコンピュータって色は出せるけれど、色以外の要素はずっと出せないできましたよね。例えば、この物理世界に実際に存在する表面の反射だとか、微細な毛羽立ちだとか、そういうのを描くテクノロジーにすごく興味があります。そういう今まで物理世界にしかなかった特徴が書き変わって行くのって、まるで魔法みたいじゃないですか。

堀江 同じような研究をしている人はいないんですか?

落合 物理的な材質感の変化に関しては極めて人が少なくて。今、世界でも7から10グループあるかないかくらいですかね。MITとドイツと僕らと、あといくつか。

堀江 いい感じでみんな研究を進めているんですか?

落合 まだ、黎明期ですね。論文では、「時間方向に反射成分を高速に切り替えたら、反射質感は出せる」とか「シリコンウエハーの表面に凹凸をたくさん作って反射を表現する板を作る」といったような話なんですが、今はその原理や切り口もまだ未開拓なのでその辺りのストーリーや戦略から作ってます。質感が変わる未来を実証するためのプロトタイプをみんな作っている段階ですね。動的に物理状態を変更するものはもっと少なくて、ここ3年くらいは僕のチームはシャボン膜で作ったりコマを高速で廻したりしていて、ドイツのチームは重金属の水面を叩いて、表面の反射状態を変えたりしています。これが20年くらいするといい礎になって、研究が進んでいくのではと思っています。でもそれが出来ると、日常生活で使う物体や乗り物、建築、あらゆるものに使われている素材の質感/素材感に関して大きな変革が起こると思います。動的に質感は変わり、物理的な素材で構成されていた世界がみるみるうちに変化していくような世界です。

 

 

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