大きな買い物で判断ミスを犯してしまう理由〜脳は狩猟時代から進化していない

2014.02.15 12:00

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これをお伝えするのはたいへん心苦しいのですが......

いえ、この際だからはっきり言いましょう。あなたの脳は、大きな数字を処理できるほど進化していません。狩猟生活をしていたあの頃から賃金奴隷の現在に至るまでの間、我々ホモサピエンスのメンタルはそれほど変わっていないのです。だから、クルマの購入や住宅ローンの契約、老後の生活設計などのシチュエーションで大きな数字に直面すると、間違いを起こしやすいのです。

ボストンカレッジで心理学を研究しているサラ・コルデス助教は、進化の過程において、大きな数字を処理する必要がなかったとことはうなずけると言います。

かつてヒトが数える必要があったものといえば、家族の人数、近くにいる天敵の数、木になっているリンゴの数ぐらいでした。つまり、非常に大きな数字に出会うことは極めて稀だったのです。大きな数字といえば、ハチの大群ぐらいでしょうか。でも、大群はあくまでもひとつの大群として見なされるので、その中に何匹いるかが問題になることはありませんでした。


ここで、下の図をご覧ください。キャンプをするとしたら、川のどっち側にテントを張った方がいいと思いますか? きっと、あなたの脳はすぐに「左側の方がクマが少ない」と判断できるでしょう。


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これは、現代の私たちが金銭面で対処しなければならない数字とは大きく異なります。現代の私たちは、次の図のような判断を強いられているのです。

この図中で、どちら側の丸が多いと思いますか? 


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ひとつひとつ数えていかない限り、あなたの脳では判断がつかないでしょう。でも、例えば自動車ローンを組むときに私たちが選択をしなければならないのは、この図のような微妙な差なのです。


数字が大きければ大きいほど、ヒトの判断力は鈍ります。これは、"scalar variability"と呼ばれる現象で、数が大きくなるにしたがって、私たちの推定は曖昧になっていきます。


脳は、この曖昧さに対する防衛策として、絶対値ではなく比率で数字を把握しようとします。つまり、ある物体のかたまりを見たときに、「このかたまりの数はわからないけど、もう一方のかたまりとほとんど同じであることはわかる」という判断はできるのです。

さて、上の図では、緑の丸は50個、青い丸は52個ありました。その差の絶対値は、先ほどのクマの図と同じでふたつ。でも、このように丸の数が多くなると、脳はその差を同じようにとらえられなくなります。

では、次のような図だったらどうでしょうか。


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たくさんの丸があるものの、右側の方が多いのは明らか。なぜなら、この場合の比率は50対100、すなわち1対2と、両者の数に非常に大きな差があるからです。


比率にも問題が


比率は代替手段としてはいいのですが、そもそも正確なものではないため、代替の域を出ることはありません。特に、大きな買い物をするときには、比率のうえでは非常に小さな差が、絶対値では莫大な差になることもあるので注意が必要です。

ところが店員は、これを利用してあなたに商品を売りつけようとします。例えば、あるクルマの標準モデルを試乗するためにディーラーを訪れたとしましょう。店員はあたかも残念そうに、「申し訳ございません。当店には標準モデルは置いていないのですが、こちらのLXモデルでしたらご試乗いただけます」と言います。

あなたは、「あくまでも試乗だからいいか」とLXモデルを運転します。それは必ず、素晴らしい走りを見せます。エンジンは快調、座席は快適、そして何よりも、ダッシュボードに付けられた装備がカッコいい。ひと目ぼれしたあなたは、値段を尋ねます。すると、店員は非常に丁寧にこう言うのです。「標準モデルは2万2100ドルです。そして只今ご試乗いただいたモデルは2万5500ドル。多少のお値引きも可能かと」

あなたの脳は、「ふーん、値段を比べれば、たったの8対7か。上級モデルでもあまり変わらないじゃないか」と考えてしまいます。でも、絶対値の差は3400ドル。時給22.01ドル(米国人の時給の中央値)でこれだけ稼ぐには実に154時間もの時間が必要だということに、残念ながらあなたの脳は気づきにくいのです。

だから、「Yes」と言う前に、ひと呼吸おいて考える癖をつけてください。少し快適なシートと快調なエンジン、そして、ダッシュボードにはカッコいい電子装置。これだけの装備が、丸1カ月の労働と引き換えに手に入る...。どちらがいいかは、あなた次第です。


大きな数字を間違いなく処理するためのツール


これまでの内容をまとめると、大きな数字を判断するときに直感に頼っていたのでは、あなたの成功はあまり望めないということ。でも、ご安心を。私たち人類は、このような状況に対処するための素晴らしいツールを構築してきました。それが数学です。


数字について話すときは、数学を使えば正確です。直観に頼っていたのでは、曖昧な推定しかできなくなってしまいますから。


多くの読者は、「数学なんて苦手」と言うでしょう。その気持ちはわかります。筆者も数学なんて面白いと思ったことはありませんが、人生においては、それが必要になることもあるのです。それに、金銭的判断の質を改善するためには数学が得意な方が有利だという科学的な証拠も示されています。

数学以外にも、「誕生日に人を自宅に呼ぶといい」など、金持ちになれると言われる方法はいくつも存在しています。確かに数学の勉強よりもずっと楽しい方法なのですが、残念ながら私は、それらが真実であることを示す科学的な証拠を目にしたことがありません。一方で、数学の能力と金銭的結果の関係に関しては、たくさんの研究がなされています。

数ある研究の中でも、コルデス博士が特に重要視しているのが、アトランタ連邦準備銀行、ローザンヌ大学、コロンビア大学が行った研究です。研究者らは、複数のサブプライムローンの借り手に数学の能力を試す一連の質問を行い、結果に応じて借り手を4つのグループに分けました。その結果、下位2グループの20%以上が抵当権を実行されたのに対し、トップグループでは7%にとどまったのです。


ファイナンシャルプランニングにおいては、数学の基礎知識が重要なようです。「500の半分は?」のような基礎的な質問に答える能力が、ローンの不履行に至る傾向や年金に関する判断力に関係していることを、多くの研究が示しているのです。


How big numbers short-circuit your brain and how to fight back|Bargaineering

CLAES BELL(原文/訳:堀込泰三)

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