五輪フィギュア:羽生、カツ丼やステーキにおびえた過去も
毎日新聞 2014年02月15日 10時15分(最終更新 02月15日 12時13分)
◇フィギュアスケート男子 羽生結弦1位
【ソチ芳賀竜也】身長171センチ、体重52キロ。モデルのようなすらりとした体形は演技面でプラスに働くが、同時に「弱点」でもあった。14日にフリーが行われたソチ冬季五輪のフィギュアスケート男子で、同種目日本選手初の金メダルを獲得した羽生選手。フリーの演技時間4分30秒と、ジュニア時代より30秒長いシニアへの転向後、羽生選手を苦しめてきたのは、演技後半のスタミナ切れ。その弱点を周囲のサポートで克服し、見事に「金」を勝ち取った。
2012年3月の世界選手権(フランス・ニース)で「ロミオとジュリエット」を舞い、銅メダルを獲得してトップ選手の仲間入りを果たした。しかし、演技後は体力がもたず、しばらく立ち上がれない状態だった。これでは戦っていけないと考えた羽生選手の関係者は昨年夏、日本オリンピック委員会(JOC)と味の素が共同で行う「ビクトリープロジェクト」に救いの手を求めた。アスリートの栄養指導では定評があったからだ。
当時の羽生選手は食が細く、風邪も引きやすかった。担当した栗原秀文さん(37)は「一口食べたら、『もういらない』というレベルだった」と振り返る。好物はすしや焼き肉、鍋。いずれも好きな量だけを口にすることができる料理だ。カツ丼やステーキなど一人前の分量がほぼ決まっている料理が出ると、羽生選手は「肉に襲われる」とおびえたという。
栗原さんは同時に、興味深い光景を目の当たりにした。羽生選手が「もう食べられない」とギブアップした約20分後、「また食べる」と箸を付けたのだ。「小食なのではなく、胃腸が動き出すタイミングが他人より遅いだけだ」。口当たりのよいものを先に食べさせ、胃腸の働きが活発になるのを待つ作戦を取った。「食べないとダメ」という強迫観念を捨てさせ、「今日食べられなければ、明日食べればいい」と、心を解きほぐすことにも努めた。その結果、昨季まではシーズン後半に調子を落としていたが、今季は風邪も引かず、調子を維持できた。