候補者を見極める極意とは(選挙プランナー・三浦博史)<参院選・特別コラム>

gooニュース2013年7月6日(土)10:00

古今東西を問わず、候補者の「演説力」は選挙戦の行方を左右するものの一つであることは言うまでもありません。では、その演説の「良し悪し」とは何でしょうか?

まずは、その候補者の演説が上手いか下手かということが挙げられます。「演説の上手い政治家」といったら、あなたは誰を思い浮かべますか? 古くは田中角栄元首相、最近では小泉純一郎元首相を思い浮かべるのではないでしょうか。この二人は「日本列島改造論」や「小泉劇場」などで形容されるように、一大ブームを巻き起こした政治家でもあったように、『演説の天才』と言ってもいいでしょう。

以前は、早稲田大学雄弁会や松下政経塾等で「弁論術」を鍛え、政治家になる人も多かったように、「弁論術」が政治家の必須条件の一つでしたが、昨今は脱サラして選挙に立候補するなど、「政治家への道」は大きく変わってきています。ですから、確かに「弁が立つ」ことに越したことはありませんが、最近は必ずしも必須条件ではなくなってきているのです。

「弁が立つ」ことと「演説が上手い」とは異なるのです。「演説が上手い」というのは聴衆にインパクトを与え、感動させることができることです。つまり、話は上手い(弁は立つ)が聴衆の耳に残っていない演説より、話は下手だが聴衆が感動し、心に残る演説を行うことができる人は「演説が上手い人」といえるのです。「痛みに耐えてよくがんばった! 感動した! おめでとう!」や「自民党をぶっ壊す!」など、皆さんの心に残っているのではないでしょうか?

しかし、近年、演説の中身以上に、選挙戦術で重要視されているのが『外見・好感力』なのです。皆さんも街頭や駅頭で政治家や候補者が演説している場面に出くわしたことが何回かあるでしょう。では、その際、政治家や候補者が何を話していたか憶えている人はほとんどいないと思われます。

ここで『メラビアンの法則』を紹介しましょう。この法則は、人はどれだけ他人を見た目で判断しているのかを研究した、米国の心理学者アルバート・メラビアン教授が1971年に提唱した法則です。

この法則によると、人の言動は話の内容などの「言語情報」が7%、口調や話の早さなどの「聴覚情報」が38%、見た目などの「視覚情報」が55%という割合で他人に影響を及ぼすというもので、その比率から『7―38―55のルール』とか、「言語情報(Verbal)」、「聴覚情報(Vocal)」、「視覚情報(Visual)」の頭文字を取って『3Vの法則』とも呼ばれています。つまり、他人への影響力という点では「聴覚情報」と「視覚情報」という「ノンバーバルコミュニケーション(非言語的コミュニケーション)」が93%を占めているというものです。

選挙も同様で、有権者は候補者の「バーバルコミュニケーション(言語的コミュニケーション)」ではなく、「ノンバーバルコミュニケーション」による『外見・好感度』で投票行動が左右されるという分析が有力になっています。

たとえば無名のA候補が毎朝、駅頭で演説をしているとします。A候補が演説を始めて1ヶ月後、通勤する人たちに「A候補を見たことがありますか」と聞くと100人中30人ほどが「見たことがある」と答えます。2ヶ月後に同じ質問をすると今度は100人中50人くらいが「見たことがある」と答えるのです。3ヶ月後、「見たことがある」と答えた人に対し、今度は「それではA候補が街頭で何をしゃべっていたか、その内容を覚えていますか?」と聞いてみると、A候補の演説の内容を言える人はほとんどいないのです。

どれだけ政治家(候補者)が一生懸命訴えても、その内容は3日も経てばほとんどの人の記憶から消えてしまうのでしょう。しかし、あの政治家(候補者)の態度がいいとか、横柄だとか、笑顔がいいとか、しかめっ面ばかりという印象は記憶からなかなか消えないものなのです。

『メラビアンの法則』に従えば100人中7人くらいしか演説の中身を聴いていないことになりますし、記憶に残るとなるとその数はさらに少なくなるでしょう。残りの93人はA候補の演説する姿を見てはいても、話の内容までは聞いていませんから、憶えているはずがありません。有権者の印象に残るのは、前述のようにA候補は話し方がソフトとか、ダミ声とか、あるいは感じがいいとか、偉そうとか、かわいいといった「ノンバーバル」のイメージなのです。

これは裏を返せば、ほとんどの人は演説の内容を聞いてもおらず、憶えてもいないということですから、候補者はただ政策だけを訴えていてもダメなのです。ご自分の『外見・好感度』に心を配って演説をしなければ、有権者の意識の中に自身のイメージを植え付けることができず、当選を引き寄せることも難しくなるわけです。

このように、今や弁論術や演説内容よりも、仕草や態度で判断される傾向が強くなっている以上、政治家・候補者側も、有権者に良いイメージを植え付けようと日夜努力しているのです。ネット上でも「ネット美人」や「ネット不美人」、即ち、ネット上で評判が良い(良く見える)候補者や評判が悪い(悪く見える)候補者等がいますが、有権者である皆さんは、そうした政治家・候補者の「外見」や「弁論術」などに惑わされず、政治家や候補者のこれまでの活動や、生の候補者を自分の目で直接見て、総合的に判断していただきたいと思います。

<筆者紹介> 三浦博史 日本初の選挙プランナー。1989年に総合選挙プランニング会社「アスク株式会社」を設立。著書に『最新 選挙立候補マニュアル』(ビジネス社)など。

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