2014年2月14日05時00分
◇1979年・3回戦
おたふく風邪が完治していない箕島の主将・上野山は、試合の記憶がほとんどない。「後からビデオで見たからでしょうね。あの試合だけは、上の方から眺めているような不思議な感覚なんです」
12回表、1死一、二塁。その上野山の前に、打球が転がった。星稜の8番石黒がバットに当てただけの二塁ゴロだった。
このシーンだけは「グラウンド上で、自分の目線による記憶がある」と上野山は言う。「スローモーションのような記憶です」
打球は本塁の近くで高く跳ね上がった。反射的に前方へダッシュした。次の瞬間だ。2バウンド目が予測より弾まなかった。体勢を落としたが間に合わず、打球は左足の脇をすり抜けていった。
二塁走者の音が一気に本塁へ駆け込んだ。5回以降はゼロが並んだスコアボードに「1」が刻まれる。2―1。星稜が勝ち越し。
尾藤監督はすぐ背番号10の副主将、中本康幸を伝令に送った。上野山は動けない。「申し訳なくてマウンドへ行けなかった」。北野がこちらを向いて「気にするな」と手のひらを振っている。浦野も両手を広げて何か言っている。
「ふだんはエラーを慰めてくれるようなやつらやない。あのときだけは妙に優しかったな」
(No.0016)
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