紛争を解決するつもりなら、こんな一方的で強硬な手段をとるべきではない。

 中学校の公民教科書の採択をめぐり、文部科学省は沖縄県に続き、八重山諸島の竹富町にも是正要求を出す構えだ。

 人口4千ほどの島々の町で、生徒が支障なく利用している検定教科書を、国が無理強いして変更させる緊急性があるのか。そのあまりにかたくなな姿勢は理解に苦しむ。

 対立の背景は複雑だ。3年前、石垣・与那国・竹富3市町でつくる採択地区の協議会が、一つの教科書を選んだ。

 その際、竹富は、協議会のメンバーが事前に入れ替えられたことなど運営に異を唱え、独自に別の教科書を採択した。

 国の無償措置は受けられなくなったが、代わりに有志の寄付で生徒に無償で配っている。

 問題をこじらせた一因は、教育に関する二つの法律の矛盾だ。採択地区で教科書を一本化せよと定めた法がある一方、各市町村に採択権を認める法もある。その状況下で竹富が一方的に悪かったと言えるのか。

 そもそも教科書を一本化する責任は3市町全体にあるとみるべきだ。是正要求するなら3市町みんなに出すべきだろう。

 教科書選びの判断で、竹富は米軍基地の記述を、2市町は領土の記述をそれぞれ重視した。いずれも沖縄にとって切実な問題だ。国が「こちらにせよ」と求めれば、一方の価値観への肩入れにもなりかねない。

 この問題が浮上した3年前、民主党政権の文科相は、内閣法制局の見解をふまえて次のように国会答弁した。自治体が自ら教科書を買って無償で配ることまで法令は禁じていない、と。

 政治判断ならともかく、法解釈は政権が代わっても変わるものではないはずだ。

 文科省は、地方教育行政法にも是正要求の定めはあるのに地方自治法の是正要求を選んだ。地教行法は、生徒の教育を受ける権利が侵されていないと使えない。竹富の生徒も検定教科書を無償で使っており、適用しにくいと判断した。

 裏返せば、教育的には直ちに問題はないといえる。にもかかわらず過去に国が直接、市町村に下した例のない強硬手段をとろうとするのはなぜなのか。

 いま、採択地区は市郡の単位でしか作れないが、文科省は町村単位でもよいと認める法改正案を今国会に出す予定だ。それなのに竹富には採択を変えよと迫るのは首尾一貫しない。

 ことを荒立てているのは誰なのか。首をかしげてしまう。