イラク:地下壕保管 大量の化学兵器を廃棄へ
毎日新聞 2014年02月13日 15時00分(最終更新 02月13日 15時35分)
【ブリュッセル斎藤義彦】サダム・フセイン政権時代にイランや自国のクルド人に化学兵器を使用したイラクが、地下壕(ごう)に保管した大量の化学兵器原料・砲弾の廃棄に乗り出す。昨年末に化学兵器禁止機関(OPCW)に廃棄計画を提出、3月に承認されれば1〜2年かけて廃棄する。OPCW外交筋が毎日新聞に明らかにした。
国連の資料によるとイラクのフセイン政権はマスタードガス、神経ガスのタブン、サリンなどを約3850トン、砲弾約20万発(生物兵器用含む)を生産。イラン・イラク戦争(1980〜88年)中に2600トン程度を使った。イランでは市民を含む5500人が死亡。イラク北東部のクルド人地域ハラブジャでも88年に使われ、数千人が死亡したという。
湾岸戦争(91年)後、国連の監視下で大量破壊兵器廃棄が進み、化学兵器も中和、爆破などで処理された。しかし、混ぜれば毒ガスを発生する安定した化学物質「前駆物質」の一部や、汚染された砲弾、容器は処理技術や設備が不十分で、南部ムサンナ県の地下壕2カ所に国連の監視下で保管された。
現在、地下壕には神経ガス・タブンの原料となるシアン化合物180トン▽サリン用のロケット弾2500発▽タブン用のコンテナ170個▽マスタードガス用の砲弾2000個、容器605個−−などが残る。
フセイン政権は2003年開戦のイラク戦争で崩壊。新政権は09年に化学兵器禁止条約に加入した。
ただ、国連の許可がないと地下壕を開けられず、安易に入れば「被害を引き起こす」(OPCW)危険もあり、廃棄作業に着手できずにいた。米英独などが壕内の探査や処理訓練で協力、廃棄計画書提出にこぎ着けた。
イラク外交筋は「国内から化学兵器をなくすことは国際社会への統合に必要。中東で化学兵器をなくす契機になる」と話す。中東ではイスラエル、エジプトが化学兵器禁止条約に未批准・未加入で保有疑惑がある。