病気の治療だけでなく、予防から介護サービスの使い方まで何でも相談できる。

 そうした「かかりつけ医」を誰もが持つ時代に向け、医療界が自己改革し、患者も意識を変える出発点にすべきだ。

 医療の公定価格である診療報酬の改定内容が決まった。40兆円近い医療費の配分を見直す2年に一度の改定で、医療の質に大きく影響する。

 目玉の一つが、「主治医」の普及を促す新料金だ。診察や検査などの報酬をひとまとめにして、生活習慣病や認知症の患者1人あたり月約1万5千円が医師側に支払われる。患者がかかる他の病院や処方薬をすべて把握するのが条件だ。

 今回、消費増税への対応として初診や再診の料金を一律に引き上げたのは疑問だが、患者の生活全体に目配りする主治医に厚く配分する方向性は正しい。

 診療所から動こうとせず、患者と目も合わさず、薬を処方するだけ。時間外は一切、対応しない。そんな開業医にまでお金は回せない。

 ただ新制度の定着には、個々の医師がバラバラにがんばっても限界がある。地域の医療機関同士で情報を共有する仕組みが必要になろう。

 参考になるのが、大阪市浪速区の医師会が4年前から取り組むネットワークづくりだ。

 かかりつけ医が、患者の病気や薬、アレルギー歴などを記入した「ブルーカード」と呼ばれる書類を作成し、緊急時に対応を依頼する地域の病院に送るとともに、地区の医師会がデータベース化している。

 登録した患者はのべ約700人。病気が悪化して救急車を呼んだ場合、登録先の病院がスムーズに受け入れる。そこでの状況は、医師会とかかりつけ医に報告される。

 入院患者が退院する際、医師会がかかりつけ医を紹介する事業も手がける。

 集めたデータを病気の予知に役立てることも視野に入れる。医師と患者の一対一の関係を超え、地域全体が有機的につながって安心を生むだろう。

 誰を自分の主治医にするか、選ぶのは患者だ。その際、医師の診療科以外でも相談に乗ってくれるか、適切な病院を紹介してくれるか、などが重要な判断基準になる。

 最初から大病院に行くのではなく、いざという時に地域の医療と介護のネットワークが頼れるよう、日頃から医師と信頼関係を結んでおく。そんな心構えが求められる。それは結果的に医療費の節約につながる。