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関連記事・データ

日本にダイバーシティー推進が必要な背景

日本の労働人口、このままだと足りなくなる

少子化の流れに歯止めがかからない日本。合計特殊出生率(1人の女性が一生のうちに出産する子どもの平均数)は、05年の1.26を底にやや持ち直した。だが、60年まで1.3台という低迷した状態が続く見通しだ。1970年代半ばですでに、「人口を維持するための出生率」とされる2.07〜2.08を割り込んでいる。 「1年間の出生数」も、1980年代初めの150万人から減り続け、2030年までには100万人を割り、さらに60年までには50万人をも割りこんでしまう。
このため、日本の人口全体も大幅に減る。もっと衝撃的なのは、働く意志と能力をもちうる「15〜64歳」が、60年で今の半分の約4400万人にまで減り、人口全体の半分でしかなくなるということだ。=図1。 産業構造が根本的に変わらない限り、働き手は決定的に不足し、女性も当たり前のように労働力として期待される時代がやってくる。


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女性の労働市場参加と活躍支援は、経済成長に不可欠
少子化の原因として、晩婚化、晩産化の影響が指摘される。長時間労働の影響で、仕事と家庭の両立がむずかしく、結婚や出産をあきらめたり遅らせたりする人が多いとみられる。また、非正規労働で収入の低い人が増え、結婚や子育ての余裕のない人が増えている、などともいわれる。
2013年6月に閣議決定した「日本再興戦略−Japan is Back−」によると、これまで活かしきれていなかった「女性の力」を最大限発揮できるようにすることは、少子高齢化で労働力人口が減っていくなか、新たな成長分野を支える人材を確保するためにも不可欠であるとした。そのうえで、出産、子育てなどによる離職を減らすとともに、指導的地位に占める女性の割合を増やし、女性が活躍できるようにするとしている。このため厚生労働省では、以下のような各職場の取り組みを支援している。
  • 「営業職に女性がほとんどいない」「課長以上の管理職は男性が大変を占めている」など、性別による事実上の格差が生じている場合、ポジティブ・アクションに自主的、積極的に取り組む。
  • 育児休業など、仕事と家庭の両立支援制度を活用してもらうため、社内規定の整備、その内容の周知とともに、制度を利用しやすい雰囲気づくりにも努める。
  • 子どもの誕生時や、育児休業からの復帰後も、仕事へのモチベーションを維持・向上させ、女性のキャリア形成ができるよう、支援していく。
  • 仕事の割り振りや評価のあり方が、適切かどうか見直す。
  • 仕事と家庭を両立しながら、キャリアビジョン(将来の目標や展望)を描けるようにしていく。
  • 女性だけでなく男性も育児に参加できるような環境づくりを促進する。

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女性の6割が結婚・出産を機に退職

2010年の厚生労働省「第14回出生動向基本調査」によると、第1子出産後に仕事を辞めている人の割合は約6割で、この数字は20年間ほとんど変化がない。=図2の左
2012年の女性の労働力率を年齢階級別にみると、「25〜29歳」(77.6%)と「45〜49歳」(75.7%)を左右のピークとし、「35〜39歳」(67.7%)を底とするM字型カーブを描いている。10年前と比べ、M字型カーブの底を中心に多くの年齢階級で上昇してきているものの、先進諸国と比べると、いまだにM字型カーブの傾向が顕著である。=図3
妊娠・出産前後で仕事を辞めた理由を尋ねると、「家事・育児に専念するため自発的に」に次いで、「仕事を続けたかったが、仕事と育児の両立の難しさで」が多い。=図2の右


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管理職クラスを襲う介護は、より重い課題に

総務省「就業構造基本調査」(2007年、12年)によると、家族の介護のために離職・転職した人は、07〜12年までの5年間で約44万人。その前の5年間で約50万人だったのに比べれば、やや減ったものの、これから「団塊の世代」の高齢化が進むだけに、その親たちを支える働き手世代にとって、仕事と介護の両立がより深刻な問題になりそうだ。出産が30歳代に集中するのに対し、介護は40〜50歳代に生じるため、働く人が企業において重要な地位を占めている時期と重なり、企業活動への影響も大きいと考えられる。=図4


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本当は働き続けたい女性、男性の意識は揺れる

日本の女性は、なぜ仕事をやめるのか――。2012年の内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」によると、女性が職業を持つことについて、「子どもができてもずっと職業を続ける方がよい」と答える人が男女ともにトップで5割近くになっている。=図5
つまり、環境さえ整えば「子育てしながら仕事を続けたい」と願っている人が多いにもかかわらず、「二者択一」を迫られている現実が浮かび上がる。
ただ、個人の意識レベルでは多少、迷い、揺れている様子がうかがえる。 同じ調査によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という考え方について、女性は48.8%が反対。男性は41.0%が反対にとどまった。
02年、04年、07年、09年の過去4回の調査では、男女あわせて反対派がぐんぐん増えきていただけに、ここに来てゆり戻した感がある。とくに男性は、前回09年調査で、反対が賛成を初めて上回ったが、また賛成する人の方が増えたようだ。=図6


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過去10年以上、すでに「共働き」がメジャー

実際に、夫が働き妻は仕事をしていないという「片働き」世帯は1980年(昭和55年)から年々減少、1997年(平成9年)に逆転し、共働き世帯の方が多くなっている。ただし、共働き世帯については、夫が正規雇用で長時間労働、妻がパートなどの非正規で短時間労働というケースが多い。=図7
共働きといっても、男女、年齢で就業形態がかなり違うことが分かる。=図8


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女性が働き続けること=少子化とは言えない

「少子化で人口減→労働市場に女性が必要→働きたい女性が働き続けられる社会に」という循環は、日本では、「女性が働き続ければ、ますます出生率が下がり、ますます少子化が進む」という議論となってきた側面がある。
しかし、他の先進国の例を見ると、必ずしもそうではないようだ。北欧諸国やニュージランドでは、女性の労働参加率が高いほど出生率が高くなっている。働き方の柔軟性を確保し、仕事と子育ての両立の基盤を整えてきた国ほど、女性労働参加率も出生率もともに上昇している、との指摘がある。=図9


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夫の家事・育児時間が長いほど第2子以降の出生率が高い

厚生労働省「第9回21世紀成年者縦断調査」(2011年)によると、子どもがいる夫婦では、夫の休日の家事・育児時間が長いほど、第2子以降の出生割合が高くなっている。= 図10
だがそもそも、総務省などの調査によれば、日本の男性の家事、育児に費やす時間は、世界的にみても最低の水準。=図11
厚労省の別の調査をみると、日本の男性は約3割が「育児休業」「育児のための短時間勤務」といった制度を利用する意向がある。ただ、実際に育児休業をとった男性の比率は、ようやく近年で1〜2%台というお寒い状況だ。=図12
ようやく「イクメン」という言葉が定着し始めたこともあり、育児のための制度を利用したい男性たちが気兼ねなく制度を使えるように、制度の中身の充実、上司の理解、男女あわせた働きかたの改革、職場の助け合いの雰囲気づくりなどが必要になるだろう。


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働き方の希望と現実、男性の方がより大きいギャップ

厚生労働省の委託で三菱UFJリサーチ&コンサルティングが実施した「子育て期の男女への仕事と子育ての両立に関するアンケート調査」(2009年)によると、「仕事と家事・子育てを両立」させたいと考えている正社員は、男性で58.4%、女性で52.3%となっている。しかし、実際には、「仕事に専念」「どちらかというと仕事優先」が男性では74%、女性では31.2%となっており、特に男性は希望と現実のギャップが大きくなっている。=図13


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女性が能力を十分生かしていない日本

教育で身につく基本能力を表すのが「人間開発指数(HDI)」。2010年版「人間開発報告書」では日本は169カ国中11位。その一方で、政策・経営への参加度や経済力を指標に男女間の格差をはじき出す「世界男女格差指数(GGGI)」(12年11月発表)では、135カ国中101位。日本の女性は教育レベルが高いにもかかわらず、社会の中で能力を十分に発揮できていないことを示している。


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女性の活用は職場の利益につながる

経済産業省がまとめた資料によると、「育児介護支援に成功した企業」と、育児介護の応援だけでなく雇用者全体が柔軟に働けるようにしている「全般的ワーク・ライフ・バランス支援型企業」は、「ほとんど何もしない企業」に比べ、粗利益率が2倍以上も高い。=図14。働く人たちへの支援は、職場のコストや負担になるのではなく、むしろ意欲の向上などにつながって、利益として跳ね返ってくるといえる。
また、育児介護などの支援とともに、能力のある女性をもっと職場のリーダーとして起用すべきだろう。内閣府がまとめた別の資料によると、就業者全体に占める女性の割合は4割と、国際的にみて、そんなに見劣りはしない。だが、管理的なポストにいる女性は1割にすぎず、国際的にみるとひどく見劣りがする。=図15。欧州などでは、役員や管理職の中の女性比率について目標値を掲げ、それを達成するための行動計画を実行している企業も増えており、日本の参考になりそうだ。


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日本人の特徴は「長時間労働」。でも生産性は低い

日本人の働き方の特徴の一つが「長時間労働」だ。内閣府の「平成18年国民生活白書」によると、日本では、週当たりの労働時間が50時間を超える人の割合は28.1%。スウェーデンが1.9%、イタリア、フィンランド、デンマークなどが4〜5%台なのに対し、圧倒的に高く、米国、オーストラリアの20%、英国の15.5%と比べても多くなっている。=図16
一方で、長時間労働にもかかわらず生産性は低い。財団法人日本生産性本部の調査によると、日本の「労働生産性」はOECD加盟34か国中19位となっている。=図17


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多様な人材・働き方と成長戦略

安倍政権は2013年に入り、働く女性を支援する姿勢を鮮明に打ち出した。女性の活用はアベノミクスの「第3の矢」の主要部分、つまり「成長戦略の中核」だと強調する。
安倍政権は実際、女性が子育てしながら働きやすい施策を示し、閣僚や省庁幹部に女性の起用も進めている。この動きを受けて今後、企業を中心とする各職場でも、女性が出産や子育てをハンディとせず、指導的ポジションにまで進める環境づくりを加速させる必要があるだろう。
女性パワーの活用は、少子高齢化で減りゆく労働人口を補う、ということにとどまらない。「新しい発想によるイノベーション」に火をつける起爆剤にもなりうる、といえるのだ。「会議や労働時間が長い」「社外とのつきあいが多い」といった日本独特の働き方を根本的に見直し、男女ともに効率を上げることで生産性を維持・向上する工夫を、少しずつ確実に実行していかなければならない。男女にとって心地よい働き方が、世帯所得のアップ、内需や輸出の拡大、ひいては日本の経済成長につながっていく、という考えを共有しておきたい。


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