内閣官房副長官などを歴任した鈴木宗男・元衆議院議員(66)=新党大地代表=の汚職事件の公判で、東京地検の検事が証言を前にした複数の贈賄側業者に多数の問答をあらかじめ記した「尋問メモ」を渡していたことがわかった。証人らは法廷でほぼこの通りに有罪の決め手となる証言をし、鈴木氏は2010年に有罪が確定して失職した。このメモの存在を知った鈴木氏側が、「検察のシナリオ通りに誘導尋問され、偽証が行われた新証拠だ」などとして12年に再審を申し立てる事態となっている。

 これまでにも検事が想定問答集を用意していたとの証言はあるが、現物が確認されたケースは異例だ。

 尋問メモを渡したのは、証言内容をあらかじめ確認する「証人テスト」の場。東京地検は、東京地裁に出した意見書でメモの作成は認めたが、「証人テストの冒頭に渡して覚えろと言ったことはなく、証人と協議して作成した」と誘導尋問の可能性を否定。再審請求の棄却を求めている。

 朝日新聞が入手したのは「証人尋問事項聴取メモ」などと題された書類。鈴木氏が収賄罪に問われた「やまりん事件」「島田建設事件」の両ルートの証人が一審での証言を控えた時期に作成されていた。

 北海道の製材会社「やまりん」の元専務(67)は、04年3月5日に行われる証人尋問のため、直前に東京・霞が関の東京地検の一室に呼ばれ、検事からB4判38ページの書類を渡された。左側に法廷で予定される問い、その右に証言すべき内容が239項目にわたって書き込まれていた。

 事件の争点は、国有林の無断伐採で入札に参加できなくなったやまりん側が、処分による不利益を不正に回復しようと、1年分の立木を年度末にまとめて購入できる「全量回復」を鈴木氏に依頼したかどうか。この点について、メモには証言内容が「例年どおりの1年分の木を買えるように(全量回復)していただくことの口添えをお願いしていました」と書かれていた。

 元専務によると、全量回復は頼んでおらず、事実と違うと指摘した。しかし検事は修正に応じず、その部分が重要だと「星印」を書き込んだという。

 東京地検の堺徹・次席検事は「再審請求中の事案で、お答えを差し控えたい」と取材にコメントした。(阿部峻介)