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スペシャルセミナー 第130回 スタンフォードの自分を変える教室

2014年02月07日

 では、望む力はどう強くするのか。毎日毎日、一番大きなゴールは何かを考えます。朝起きた時、ただこれをやろうというだけでなく、どうしてそれをやりたいのかも考えます。一体何をしたいのか、どうしてそのような動機を持っているかを考えます。また、ゴールに到達する上で、他の人との関係をどう保つか。到達すれば、社会にどのように貢献できるのかも考えます。これを自らのこととして考えます。すると、家族に尽くす、コミュニティに尽くす、あるいは社会に尽くすということになります。こうした動機がよく分かると、よりエネルギーも意志力も出てきます。

 また、やらない力を強くするために、呼吸に関する科学的な調査をもう少し詳しくお話します。この研究は、ピッツバーグ大学で行われました。参加者は成人で、禁煙したい人たちでした。しかし、上手くいかず結局喫煙してしまう人たちでした。その人たちに、呼吸法を教えました。まず呼吸に集中します。ゆっくりと呼吸します。タバコを吸いたいという欲望は、そのまま受け入れます。この呼吸テクニックを練習すると、劇的に脳の様子が変わりました。欲望を抑える気持ちによって、いわゆる脳科学で言う脳の欲求ネットワークが変わったのです。さまざまな調査により、ゆっくりと呼吸をすることで、欲望を抑えられたり、抵抗力が強くなったりすることが分かっています。

 そして、やる力のトレーニングです。心理的なエクササイズを行い、やる力を強くするには、大きなゴールや中間的な価値に向けて進むことが大切です。その方法として3分間でよいので自分のゴールについて書き出してください。このような練習を繰り返し行うと、小さなことをやる筋肉が鍛えられます。これによって、容易にゴールに近づくチャンスが見つけやすくなります。

 最後のプロセスとして、挫折があることも考えます。意志力のプロセスには挫折や失敗は付き物です。成功者になれるかは、挫折したかどうかでは測れないことが分かっています。それは、誰もが挫折や失敗は体験するものだからです。最終的に成功するかしないかは、その挫折にどう取り組むかなのです。
 私は、意志力は循環して回っている円のようなものだと考えています。まずゴールを立て、そこに向かって一歩踏み出す。途切れたら一からやり直す。これを意識的にやると、どう働くのかが理解でき、ゴールがより達成しやすくなります。

○お互いを支え合う社会的プロセス
  意志力の最後の側面として、社会的なプロセスがあります。自分がベストの状態になる必要がありますが、お互いを支え合うことも必要です。

 ハーバード大学とカリフォルニア大学ロサンジェルス校の共同研究では、コミュニティの中のある一人の変化が、コミュニティの関係性を通して全体に広がっていくことが分かってきました。
 例えば、友人あるいは配偶者が体重を増加させて太ると、関係性の深い人は、不健康に太る可能性が2~3倍高くなります。意志力の感染でも、同じようなパターンが見られます。ある一人がお酒を控えたり、タバコを吸わなくなったり、運動するようになったりすると、その人の周りのコミュニティにも広がるのです。一人の人が倫理的な行動を取ったり、より良い自分であろうとしたりすると、周りの人にそれが広がっていきます。ですから、意志力にも感染力があります。この変化が、社会的なプロセスです。

 では、意志力のコミュニティをどう作ればよいのでしょうか。
 コミュニティ環境の中に、1つのきっかけを設けることによって、多くの人たちが小さな一歩を踏み出すことができ、最終的には大きな善に繋がります。例えば、ゴミ箱を設けるとします、どこに何を入れるかが決まります。リサイクルするものもこのゴミ箱には捨てることができ、環境にとっても経済にとっても良いことが起こります。グローバル経済を支えようなどと考えなくても、目の前にあることで貢献できるようになります。これは意志力のアウトソーシングと呼ばれています。

 アメリカの企業はどう取り組んでいるでしょうか。
 例えば、Googleではお昼寝ポッドと呼ばれるものがオフィスの中に設けられています。どうぞ短いお昼寝をしてください、ということです。自分の身体を大切にすることで、仕事のパフォーマンスが高まるという考えです。食堂もそういった考えに基づいて作られています。 セイロというシカゴとミネアポリスに本拠を置く金融関係スタッフの企業では、会議室にテーブルも椅子もありません。身体を動かせば、身体も頭ももっと集中力が高まり、より倫理的な良い決断ができることが分かっているからです。

 環境に優しいことをしようという意志力の現れの例を三つご紹介します。
 一つ目は電気のスイッチの上にステッカーを貼ります。電気のスイッチを入れるたびに、二酸化炭素を排出しているのですよ、と知らせるのです。スイッチを切れば、CO2の排出が削減できることを多くの人に知らせています。
 二つ目は、リサイクルを増やす運動です。あるコミュニティでは、ゴミがあちらこちらに捨てられていました。しかし、はっきりとした緑色の足跡を描くことで、ゴミ箱の方に行くように導きます。
 最後は、健康な選択肢に導く例です。赤い線をたどると階段に行き着くようにデザインしてあります。また、エレベーターやエスカレーターを探さないと分からないようなところに置くという例もみられます。エレベーターに乗るよりも、階段を上った方が健康的であることは分かっています。これらは、グリーンデザインあるいはアクティブデザインと呼ばれています。
 このようにプロセスを可視化する仕組みを作り、良い選択肢に人を導こうということです。

 これらを紹介したのは、いろいろな形で意志力は考えられる、ということを示したかったからです。いつも自分だけが勝ち残るのでなく、環境作りをし、そのゴールをシェアし合うことが大切です。環境を作り、みなさんにそのゴールを訴えます。組織であっても会社であっても家族であっても、ゴールを共有化します。そして皆がまとまり、コミュニティ、集合体、集団として意志力を増すことが大切なのです。

 意志力をこういう形で考えると、このプロセスに入るには、どこからでもスタートできることにお気づきだと思います。年齢は関係ありません。どんなにゴールから遠いと感じていても関係ありません。こういった形で意志力を考えると、どこにいてもそのプロセスに一歩進めます。お互いにサポートし合いながら、意志力を鍛えていくことができるのです。

 ご清聴ありがとうございました。


(2014年2月7日公開)



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心理学者 スタンフォード大学講師
ケリー・マクゴニガル 氏
講演日:C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2013基調講演(2013年11月15日開催)より



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  • H.I.さん

    サテライト会場だったため、ご本人の声での講演が聞けませんでした。
    会場では、動画のアップもされるというお話でしたので楽しみにしているのですが、まだの様なので早めにアップされる事を期待しております(もちろん、肉声での英語版をお願いしたいです)

    2014年02月10日 15:35

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