台湾海峡は、冷戦後の世界で最も危うい発火点の一つとされてきた。だが、それは次第に過去のものになりつつある。

 中国と台湾の分断から65年。中台関係を担当する双方の閣僚がきのう、初めて正式に会談した。舞台となったのは、中国の近代を切り開いた孫文の陵墓がある古都・南京だった。

 対話をめざす国民党の馬英九(マーインチウ)氏が台湾の総統に就いた08年以来、融和ムードが続いている。穏健路線の結実は、日本にとっても歓迎すべきことだ。

 中台双方の政権は、この機運を大切にしつつ慎重に対話を深めてほしい。特に、台湾住民の意思を尊重しながら歩を進めるよう留意すべきだ。

 中国の共産党と台湾の国民党とは、大陸で激しい内戦を繰り広げた歴史を背負っている。

 共産党政権は台湾統一を中華民族の悲願とし、対する国民党政権は今も中国全土の主権を持つ建前を捨てていない。

 だから、90年代に始まった実務交渉は「民間窓口機関」同士という体裁をとった。その成果で今は直行便が行き交い、貿易、投資も盛んになった。

 今回は「民間」レベルから大きく踏み出した。互いに中台関係を担う閣僚同士が直接対面したことに意味がある。

 中国側は、統一に向けた重要な一歩と位置づけるだろう。台湾側は、深まる経済の結びつきを重んじ、対中関係の安定は欠かせないとの判断があろう。

 中台の首脳会談の実現もそう遠くない。そんな声も出始め、台湾の政権内では前向きな発言も出ている。

 だが忘れてはならないのは、台湾の人びとは性急な接近も緊張も望んでいないことだ。

 世論調査では8割が「現状維持」を支持している。中国との統一を望む意見も、逆に台湾が国として直ちに独立すべきだとの意見も、どちらも少ない。

 中国の民主化の遅れに違和感を抱き、台湾人としての意識は高まる傾向にある。一方で中国との経済関係は大事にしたい。「現状維持」は、台湾の平衡感覚の表れであろう。

 中国は統一を叫ぶ前に、圧力をゆるめるのが先決だ。

 中国は千数百発のミサイルを台湾に向け、武力行使の構えを崩さない。台湾が世界保健機関(WHO)などの国際機構に正式加盟することも阻んできた。そうした行動が続く限り、台湾の警戒感は消えない。

 馬総統の任期はあと2年を残すばかりだ。功を焦らず、台湾とアジアの未来を冷静に見据えた取り組みを期待したい。