なぜ、このタイミングでの謝罪だったのか。12日未明に「3年前くらいから言葉が聞き取れる時もあるまで回復していた」と謝罪文を出して嘘を認めた作曲家、佐村河内守氏(50)。日本中がソチ冬季五輪の競技結果に一喜一憂する中で出された謝罪に、世間を欺いてきた作曲家のしたたかな計算がかいま見える。
謝罪文で佐村河内氏は、「3年前くらいから耳元ではっきり、ゆっくりしゃべってもらうと、こもってゆがむ感じはありますが、言葉が聞き取れる時もあるまでに回復していました」と説明。体調が悪いときは聞き取れないこともある、としている。
だが、かつて聞こえていなかったことは真実と主張。ゴーストライターを務めてきた作曲家の新垣隆氏(43)が6日の会見で「初めて会った時から耳が聞こえないと感じたことはない」と指摘したことには、「事実と違う」と反論した。
「偽って生きてきたことを深く恥じています」「売名行為と見られても仕方ない」などと後悔の念をにじませている佐村河内氏だが、その真意をいぶかしむ声がさっそくあがっている。
すでにインターネット上には「ソチで高梨沙羅がメダルを取ってメディアが五輪報道一色になると予想したんじゃないか」という趣旨の書き込みが相次いでいる。
医学的見地からも疑問の声が。全聾からの聴覚回復について、本紙で「医の常識非常識」(火曜掲載)を連載する新渡戸文化短大学長の医学博士、中原英臣氏は、「まったく耳の聞こえない方が、人工内耳の埋め込み手術などの処置をせずに聴力を回復させるケースは、可能性ゼロではないものの、まれなことといえる」と指摘。「数年前に聴力が回復していたのなら、その時点で『聞こえるようになった』と明らかにすればよかった。『聞こえるようになったおかげでよりよい作曲ができる』とも言えたはずだ。聴力の回復は喜ぶべきことで、隠すような話ではない」とした。
取得していた聴覚障害2級の身体障害者手帳は、専門家の検査を受けて2級でないと判定されれば返納するとの意思を示したが、身体障害者福祉法には手帳を不正取得した場合、「6カ月以下の懲役または20万円以下の罰金」という罰則規定がある。
近く公の場で謝罪するとした佐村河内氏だが、真実と嘘の全貌はまだ明らかになっていない。