2013年09月13日

A&R Lab製のCPMなるモジュールを調査

測定していると色々と調べる事が増え、多少遅れ気味になってしまいました。

さて、今回はA&R Labが販売しているCPMなる部品を調べてみる事にします。これは協力者から提供されたものです。ご協力に大変感謝いたします。

DSC_0447.JPG

この左側の部品です。CP−3006HCとあります。隠蔽材で固められており、中身は知りません。メーカの公表しているペーパを引用しておきます。

degawa.png

まず、V−I特性をカーブトレーサによって測定してみます。(スクリーンに色々写り込むと見えにくいので、電気を消して撮影しています。ご了承下さい。)

DSC_0496.JPG

非常に大きなループが観測されます。カーブトレーサでは交流電流を用いて測定するので、リアクタンス成分があるとこのような表示が出るのです。通常のコンデンサでは両側に広がりますが、片方がクリップされるのでダイオードがあるようです。そこで、ディジタルLCRメータで容量を量ってみます。

DSC_0502.JPG

1μFのコンデンサ? では、部品棚から出した1μFのコンデンサを測ってみましょう。

DSC_0501.JPG

どうも違いを見いだすのが難しそうな感じです。そこで、この1μFのコンデンサと適当なショットキィダイオードをパラにしたものを作って、V−I特性を測ってみます。

DSC_0499.JPG

同じような形のV−I特性が得られました。(感度は全て0.2V/Div,0.1mA/Div)

ただ、クリップしている部分の傾斜が違いますが、それはダイオードの内部抵抗の差が現れているものと考えられます。

次に、抵抗1kΩとCPMによってローパスフィルタを作り、1μFのコンデンサと周波数特性を比較してみます。測定にはFGとHP 3575A利得位相計を使用しています。

無題.png

低い方で−3.6dBとなる理由は、ダイオードの内部抵抗が見えるためです。以上の結果を総合して考えると、CPMの正体はコンデンサとダイオードの並列である、と考えて良さそうです。

***


A&R Labによる効果の主張を要約すると、

1.高周波ノイズをアースに流す。
2.逆起電圧をマイナスからプラスへ回生させる。
3.結果として一時的な回路の瞬断状態が無くなる。

という事ですが、

1.については1μFのコンデンサとしての働きが期待できる以上、否定は出来ません。しかし、一般的に1μFのコンデンサは1MHz前後で、自己の誘導性リアクタンスによりコンデンサとしての機能を失ってしまいます。それより高い周波数では、もっと容量の小さいコンデンサの方が有利になります。容量の小さいコンデンサは、一般に自己の誘導性リアクタンスも小さいのです。1MHz前後ではリード線の寄生成分そのものが問題となり、遠く離れたところにコンデンサを置く事は効果的ではないと考えられます。

2.については、そもそも、電力回生が起きるのは電源側と負荷側の立場が逆転した時(負荷であった側の起電力が高くなったとき)だけです。普通、回路の中でそういった起電力が発生するのは、電動機のような大きな慣性がある負荷を持った回路だけであると考えられます。需給が逆になるようなアンバランスが発生すると、電源回路の電圧が上昇しきって過電圧保護回路が作動するか、あるいは故障するかのどちらかです。これは、普通の電源回路は、電灯線から得た電力を負荷に送り込む、という一方通行のものであるからです。逆流を可能にするのは一般的ではありません。水道からダムに逆に水を送り込むようなもんです。

従って、多分主張されているのは恒常的でない逆起電力でありましょう。これが発生した場合はどうなっているのかですが、電源回路のコンデンサに電荷として蓄積される事になります。一般のセットの場合、平滑コンデンサの容量は1Aあたり1000μFと考えて良いでしょう。普通のセットではこれより余裕を取っていますが、とりあえずこの容量とすると、1μFのコンデンサはその1/1000にしか寄与しないと考えて良いわけです。この程度は平滑コンデンサの誤差範囲であり、効果があるとは考えられない、という事になります。

スピーカの逆起電力に関しては、出力回路の能動素子が一方通行である以上、アンプ回路内で消耗されるのが通常となります。特に負饋還を掛けたアンプの場合は、逆起電力を打ち消す方向に動作しますから、やはり効果は疑問であります。

このような素子のみによって、逆起電圧を電流として回生する、という説明もなかなか意味不明です。

3.については、そもそも瞬断状態はないものと考えられます。ディジタル機器の場合、今行っているステップの1個前の情報が保持されている事が処理系の大前提であり、情報を電気的に保持している以上、主張されているような瞬断が生じたら全く使い物にならない事になります。最近のディジタル回路は電源に非常に厳しい要求事項がありますが、当然このような素子が要求される事はありません。アナログ回路にしても、1GHz直読のオシロまであったわけで、もしそこで瞬断などあったら万事休す、考えられない話であると言わざるを得ません。当然、超高精度の測定器にも、この素子は使用してありません。

もしもそのような瞬断があるとしたら、シミュレーションのバグ・誤差とか測定方法の誤りの可能性を考える必要も出てきます。それは、その特異点が微細であればあるほどそうです。このような主流の考え方に反する説を述べる場合は、測定データによる丁寧な検証を必要としますが、出川氏はこの根本的な部分について具体的にどのような現象が観測されたのか、という話を全く欠いてきている訳です。そのような態度には甚だ疑問を投げかけざるを得ません。

***


このペーパーによると、「PAT 3133340」、とありますが、これはどうも特許ではなく実用新案であるようです。IPDLでそれを調べると、

【請求項1】
シリーズ電源回路及びスイッチング電源回路などの、コンデンサを使用した直流電源回路において、プラス(+)側とマイナス(−)側間に、コイルL成分を含む負荷から発生する逆起電力を回生させるため、逆起電力回生素子としてショットキ・バリヤ・ダイオードのカソードをコンデンサプラス(+)側に接続、該ショットキ・バリヤ・ダイオードのアノードをコンデンサプラス(−)に接続したことを特徴とするコンデンサを使用した直流電源回路。
【請求項2】
前記ショットキ・バリヤ・ダイオードは逆方向もれ電流が定格電圧時0.8mA以下の低漏れ電流を特徴とするタイプで、順方向圧降下(VF)は理論限界値に近い値をもち、例えば順方向電流30Aタイプ逆耐電圧(PRV)が30V品で30A時に順方向圧降下(VF)が、VF=0.56V、逆耐電圧(PRV)が200V品でVF=0.91V以下で、なおかつ、アバランシェ耐量を有することを特徴とする請求項1に記載のコンデンサを使用した直流電源回路。
【請求項3】
前記ショットキ・バリヤ・ダイオードが、絶縁ケースにショットキ・バリヤ・ダイオードチップとして封入され、前記絶縁ケースから該チップのプラス(+)側及びマイナス(−)側の極性が判別できるように識別可能なマークと一対のリード線を導出したパッケージ封入型の逆起電力回生モジュールとしたことを特徴とする請求項1に記載のコンデンサを使用した直流電源回路。

という事です。この中で核心的なのは請求項3、「ダイオードをパッケージに封入して+/−の区別が付くようにしたもの」であり、つまりダイオードを買ってくればよい訳です。請求項1、2については、実用新案が無審査方式である事から言及しません。そのうち、この辺の話も解説しましょう。

追試すると特許とか実用新案に触れるのでは? という事ですが、これら工業所有権というものは、一定の保護を与える代わりに技術情報を公開させる事が目的であり、その公になった内容を書いたからといって罰せられる事はありませんし、アマチュアが自作されるのであれば、工業所有権を持つものから部品を購入せず、同様の効果のある回路を組み立てて個人的に遊ぶ(営業に供さない)のは自由で、その追試内容の公開を含めて誰からも妨げられる事は無いものと考えます。アマチュアはどんどんおやりになって良いと思います。高い値段を出して買ったものの方が、数十円のダイオードより何となく効果がありそうだ、という話は別にして。

***


しかし、ここまで書いておきながら、私は効果がないと断言はしません。といってもそれは心理的なものであり、物理的には効果が期待できるレベルでないのは明らかですが、客観的な評価とは別にご自身で気に入るように修正を加えた装置の方が良い感想を持つ、というのは不思議ではないからです。それはあくまでも内心の問題である以上、他者からは計り知れないものであり、それを否定したところで建設的ではないからです。特に完全に感覚的な面において、他者のそれを否定する事によって虚栄心のようなものを満たすのは避けた方がよろしい。

ただ、純粋に技術者としてどうか? という質問になったら話は別であり、物理的に意味がないもの、効果の考えられないものを付けるのは当然避けるべき(コスト面からも、設計の美しさからも)ですし、各種のペーパーを見ても、従来からあるような、ごく普通に作った電源に対して何らかの意味があるとは全く考えられないからです。

感覚的な効果があるからといっても、そのときに科学的な効果が確かにあるかのように謳うのは、大いに異議あり、と言わざるを得ません。

別の観点から見ると、このような素子を付ける改造は製造メーカにとって「不正改造」と捉える場合もあるでしょう。従って、修理などのサポートが受けられなくなるといった不利益を被る可能性がありますから、その点を十分に考えて、ご自身の責任において取付とか効果の判断をなさるのがよいかと考えます。また、ちょっとポンづけて感想が良くなったらまだ幸いで、逆に感想が悪くなった、という可能性も十分にあります。その場合、弄ってしまった装置を誰が元に戻すのか? という問題が生ずる事も念のために申し上げておきます。

以上を纏めると、

1.改造に出すと、今後修理不可など不利益な扱いが生じないか、機器の製造メーカに確認する。製造メーカとしての見解も確認する。(効果の有無とか不具合情報など、貴重な知見を持っている可能性があります。)

2.科学的に根拠があるかどうか(体験談などばかりでなく)を第三者の文献や評価により確認し、その上で改造するかどうかを考える。改造者の知見だけを鵜呑みにしたり、「聴く事は信ずる事」等という短絡思考はやめた方が無難です。

3.もし改造が不首尾だった場合、誰がどうやって元に戻すのかを確認する。(改造者が復旧を行うのか、製造メーカが復旧を行うのか等を確かめ、工賃の確認をして見積も取っておきます。)

という事です。

【質問・意見を歓迎いたします。但し、本コーナーに対して戴いたメッセージは公開を前提としますので、その旨を予めご了承いただきたいと思います。質問方法はこちらを御覧下さい。http://musashino-elw.sakura.ne.jp/contact.html


9/16 改題しました。

サーチエンジンで「出川式 オカルト」「出川式 懐疑」、「出川式 怪しい」と検索すると色々結果が出ます。個々の話題に立ち入ることは避けますが、金田式アンプの信奉者に随分使っている人が多いようです。まったく、買ってくるばかりで分解するとか測定してみるといった事を、最近の自作派の方は是としないんでしょうか。指導者の言うなりとなり、自分で調査してみないとは誠に情けない話です。

それから、電子部品であるに関わらず、健康食品関係のページが浮かんできます。出川式電源のことを書くと強力な削除要請が来るという噂もありますが、ちょっと危なっかしい話題なのかも知れません。

本体の出川式整流モジュールも手に入れてあるので、近いうちに調査とか測定結果のご紹介をしたいと思います。


9/26 補足します...

普通に考えて、製造メーカ以外が行う(非正規の)改造には大きなリスクがあるので、改造者はその点について十分に説明をしなければ、消費者保護の観点から誠実とは言えません。

一方、改造されてしまった装置を誰が元に戻すのか、という話になると、やはり製造メーカに相談するのが普通と思います。ただ、その対応は各社各様であり、また修理には責任を伴うので判断が難しいところです。それは、

1.改造の後遺症によって、残存させる電子部品に今後危険が生じないか確認・保証するのが難しい。
2.シャシーの穴とか接着剤などを完全に除去できない。
3.プリント配線板の場合、配線板をそのまま丸ごと交換することとなり、これもまた後日クレームの原因となることがある。
4.非定型の作業となるため、それなりに手間も時間も掛かる。

ということです。従って、程度によっては新品で補填しなければならない場合も出てくるでしょう。当然、このようなサービスで利益を得ることは大変難しく、頻度その他の影響もあるものの、その費用を間接的に他のお客様に案分して処理しなければならない場合も生じてくるかも知れません。このような点(他のお客様との不公平)から、改造した製品を一切のサポート対象から外すという処置も一応の合理性があるように思われます。

工賃を一切厭わず、改造起因と思われる故障に対する保証がないという条件であれば、場合によっては受けて下さるメーカもあるかも知れませんが、通常業務に及ぼす影響が甚だしく大きく、やはり非常に少ないと思われます。

改造に関するもう一つの問題、それは売却時に全く値段がつかなくなることです。製造メーカからサポートが受けられる見込みもなくなり、売却時の値段もつかず、改造の根拠は不明で効果も一種の博打、効果があっても心理的効果、という事になると、これは判断がなかなか難しいところです。

しかし、物理的な効果が望めないというのは、換言すれば致命的なトラブルの可能性が少なくなる、つまり逃げられないクレームを避けるということで、それはそれで意味があることなのでしょう。
posted by n.kasuya at 10:10| Comment(2) | TrackBack(0) | 測ってみよう
この記事へのコメント
はじめまして。
知人の紹介でページを知り拝見させていただきました。

私も出川式電源(CPM)の話を聞いて、ホームページとPATの公開文書をざっと眺めましたが、課題とされてる「瞬断」は、一般的な整流ダイオード(接合ダイオード)のスイッチング時間と逆流によるコンデンサチャージ電流の途切れのことを指していて、その穴埋めをしようとしてるのではないかと解釈しました。
ホームページの説明文を読んでて、昔、NECのアンプにあった「リザーブ電源」を思い出しました。
こちらはチャージ電流の穴埋めとというよりは、大出力時のチャージ電流のピーク削減が主体と記憶していますが、考え方は似てるかなと思いました。

ただ、リザーブ電源は、ちゃんと穴埋めの電流を流すように作られていましたが、CPM(というかあのサイズのコンデンサ)で効果的な電流の穴埋めができるかは??と思っています。

さらに、瞬断、逆流で思い出したのが、整流管の電源です。
もしかしたら、あれをトランジスタアンプに持ち込みたかったんじゃないかなと勘ぐってたりもします。

逆起電力云々は、事の大小、聴感への影響有無は別にして、アースラインに戻りの信号電流が流れるSEPPが根源的に抱える課題で、電源回路や外付けの部品でどうこう出来るものではないと考えています。
リレーじゃあるまいし、ここにダイオードを入れる意味は見出せません。

結果的に、CPMは電源のブロックケミコンにパラにつけるフィルムコンデンサ以上の何者でもなく、音への影響も、そのレベルのものと考えています。
(昔、Λコンデンサとかありましたね。。)

この変化の大小/良否は感性領域なので、評価しにくいですが、古い(いい具合にくたびれてきている)SEPPアンプにつけたら、さぞ変化を感じられるものではないでしょうか。
Posted by Tom at 2013年09月28日 14:09
出川式整流モジュールの分析、楽しみにしています!
Posted by Yamada at 2013年11月03日 23:25
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/74941989
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック