日本経済の幻想と真実

NHKはなぜ「偽ベートーベン」にだまされたのかゴーストライターを見破れなかった品質管理の落とし穴

2014.02.12(水)  池田 信夫

NHKは検証番組を作るべきだ

 しかし提案が通ってからも、問題を発見するチャンスはあったはずだ。Nスペの制作期間は3カ月から半年ぐらいあり、品質管理は非常に厳格だ。編集から放送までにプロデューサーや部長や局長などが数十回も試写を繰り返し、100人近くが見る。

 それをすり抜けて嘘が放送されたのは、NHKのチェック体制に深刻な欠陥があることを示唆している。洋楽班には東京芸大の博士課程を出た職員もいるので、音楽的な水準はチェックしただろう。

 問題は、それを作曲したのが別人だったという「まさか」のリスクに気づくことができたのかどうかである。それは困難だと思うが、曲が盗作である(本気で作曲していない)ことには気づいたのではないか。

 新垣氏は「『新潮45』でマーラーとの類似を指摘されたとき、覚悟を決めた」という。2013年11月号に出た野口剛夫氏(音楽評論家)の「『全聾の天才作曲家』佐村河内守は本物か」という記事には、こう書かれている。

 この交響曲[第1番]の最後で、それまでの全ての苦痛と葛藤を鎮静させるように現れる音楽が、ほとんどマーラーの交響曲(第3番の終楽章?)の焼き直しのような響きになってしまうのは、いったいどう理解したらよいのだろう。

 

 今は交響曲第1番は入手不可能だが、ネット上にある最後の部分を聞くと「マーラーの第3番の終楽章に似ている」という指摘は分かる。旋律だけでなく、編曲までそっくり同じだ。これを指揮した秋山和慶氏や広島交響楽団のメンバーは気づかなかったのだろうか?

 少なくとも野口氏は気づいていたので、他の専門家がそれに気づかなかったとすれば無能だし、知っていて絶賛したとすれば共犯である。

 NHKはこの問題を検証し、なぜこういう失敗が起こったのかを解明するドキュメンタリーを作るべきだ。それが多くの人々に「偽の感動」を与え、音楽への信頼を失墜させたメディアとしての責任である。

Premium Information
楽天SocialNewsに投稿!
このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

バックナンバー

アクセスランキング
プライバシーマーク

当社は、2010年1月に日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)より、個人情報について適切な取り扱いがおこなわれている企業に与えられる「プライバシーマーク」を取得いたしました。

Back To Top