日本経済の幻想と真実

NHKはなぜ「偽ベートーベン」にだまされたのかゴーストライターを見破れなかった品質管理の落とし穴

2014.02.12(水)  池田 信夫

専門家が絶賛した「日本のベートーベン」

 「魂の旋律」を提案したのは古賀淳也というフリーのディレクター(元TBS勤務)だが、クレジットには「制作・著作 NHK」となっているので、これは彼と契約してNHKが自社制作したものと思われる。

 Nスペの提案は年間数千本に上り、職員でも提案を通すのは非常にむずかしい。外部の提案が通ったのは、よほど強い推薦があったものと思われる。それが何だったかはまだ分からないが、この番組にも登場する三枝成彰氏(作曲家)は昔からNHKとも縁が深い。

 2009年に芥川作曲賞の審査員として佐村河内氏の「交響曲第1番」を聴いたときの感想を、三枝氏はブログでこう書いている。

 予備知識なしにこの作品を聴いたのだが、大きな衝撃を受けた。まずは曲の素晴らしさに驚き、その後、彼のプロフィールを知ってさらに驚いた。そして、ぜひこの作品を最終選考に残すように申し上げたのだが、そうなるには至らなかった。[中略]
 「ロマンティシズムへの回帰」、そして「官能の海に溺れる音楽こそ、21世紀の新しき前衛」と提唱してきた私としては、彼のような人が同じ世界にいて下さることに、とても勇気づけられるのだ。

 

 三枝氏ほどの大御所が推薦し、多くの既成事実が積み重なり、佐村河内氏に5年近く取材していたディレクターが自信を持って提案すると、Nスペ事務局が信用するのはやむをえない面もある。

 番組は耳のまったく聞こえない作曲家が東日本大震災の被災者のために作曲し、義手のバイオリニストが演奏するという感動のストーリーだ。佐村河内氏は「作曲家」を演じているので、彼が詐欺師だと疑わない限り、これを見破るのはむずかしい。

 問題は、提案した古賀氏が本当に知らなかったのかということだ。5年間も取材してまったく知らなかったとは考えにくいが、嘘と知りながらNHKに持ち込んだとも思えない。耳が聞こえないというのはおかしいと気づいたが、作曲者が別にいるのは知らなかったのかもしれない。

 しかし提案が通ってからも、問題を発見するチャンスは…
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