映画『パンドラの約束』特別インタビュー
なぜ環境保護派が原子力を支持するのか

ロバート・ストーン(映画監督)




WEDGE編集部

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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――福島の事故をどう見ていますか。

 「パンドラの約束」の製作中、私は福島の避難指示区域を訪れ、自分自身の目で、そこで何が起きたのかを確認しました。気候崩壊を防ぐ取り組みに必須なエレメントとして、原子力エネルギーを支持する立場のひとりとして、福島を訪ねることは、ひどく心がかき乱される思いでした。端的に言って、福島原発事故は決して起こってはならないことでした。また、事故を引き起こした人為ミス、すなわち不十分な防波堤と海抜の低い位置に非常用の発電機を設置していたことに対する説明や謝罪はみられません。

ロバート・ストーン監督 ((c)フィルムヴォイス、以下同)

 日本各地の原子炉は、千年に一度という最強レベルの地震の中でも特段問題ありませんでした。一歩前に進み、このことが思い出されなければなりません。

 福島の発電所だけが唯一、津波によって破壊された後に、惨事に見舞われました。WHO(世界保健機構)とUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)は原爆が投下された広島と長崎で生き残った人々の健康状態を、およそ70年に亘り調査し、福島での放射線放出による被曝によって健康上の悪影響を受けた人はおらず、また今後についても、何らかの健康被害が認められることは非常に考えにくいと結論付けました。

 反核グループは、当然これらの見識に異議を唱えるでしょう。なぜなら、彼らがこれまで40年間作り上げてきた、「核関連の事故がもし起きれば、この世の終わりのような大惨事となる」という説を否定することになるからです。

 この主張こそ、彼らが原子力エネルギーに反対する所以であり、彼らは決してその主張と矛盾する科学的な証拠を受け入れません。彼らは、その政治目的を達成するため、民衆が原子力エネルギーを恐れるよう仕向ける必要があります。日本国民の多くは、ほんの少しであっても放射線量が上がることを恐れており、それは彼らの思うつぼです。

 私は、避難指示区域のすぐ外にある街を訪れましたが、そこの親たちは子供たちが屋外で遊ぶことを許しませんでした。断じて、です。放射線量は、世界の多くの地域の元々の放射線量より低い数値でした。しかし親たちは、反核の人々やメディアから得た情報で子供たちの健康を慮り、放射線を恐れていました。

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