勇気をもらった「交響曲第一番」
広島ご出身の作曲家に、佐村河内守(さむらごうち・まもる)という人がいる。
広島への原爆投下で被爆されたご両親のもと、1963年に生まれた彼は、幼いころにお母様から音楽の手ほどきを受けられたのを初めとして、作曲家を志すようになったという。
しかし、成長するにしたがって、しばしば彼は原因不明の頭痛、耳鳴りや体調不良に見舞われる。そして、35歳になったころ、完全に聴覚を失ってしまわれた。
そんな苦境にあっても、彼は音楽への情熱を失わず、幼いころからの鋭い感受性と天性のセンスをもとに、ほとばしる思いを胸に秘めて独学で勉強を続け、曲を書き続けた。
私は知らなかったのだが、『鬼武者』というゲームの音楽などで、高い評価を受けてこられたようだ。
そんな佐村河内さんが書き上げた「交響曲第一番」が、昨年、広島で行われたG8議長サミットを記念したコンサートで初演された。曲の構想は彼が17歳のころからあったという。およそ20年にわたって書き継がれた曲なのだ。
芥川作曲賞という作曲家のコンクールがある。今年、その選考員をおおせつかった私は、その候補作の一つだった「交響曲第一番」を選考委員会で聴いた。
それまで佐村河内さんのことをまったく存じ上げなかった私は、予備知識なしにこの作品を聴いたのだが、大きな衝撃を受けた。
まずは曲の素晴らしさに驚き、その後、彼のプロフィールを知ってさらに驚いた。
そして、ぜひこの作品を最終選考に残すように申し上げたのだが、そうなるには至らなかった。
曲のスタイルが新しいか古いかと言われれば、「交響曲第一番」は確かに古いスタイルにのっとって書かれた作品かもしれない。しかし、そんなことは作品の良し悪しとは関係のないことだ。
……と思うのだが、いわゆる“現代音楽”に携わっている人たちからすれば、確かによい曲だとわかってはいても、やはり評価は、よりコンセプチュアルで先鋭的な作品のほうへ傾いてしまうきらいがある。
しかし、選考に漏れたからといって、この作品の価値はいっこうに揺らぐものではない。それに私は、佐村河内さんが上述したようなバックボーンを持つ人だから「交響曲第一番」がよいと思ったわけではない。
純粋にいい曲だから惹かれたのである。それはこの曲を聴いたことのある人たちなら、わかっていただけるはずだ。
初演のときはテレビなどでも取り上げられたようだし、その前年、彼は曲のタイトルどおりの『交響曲第一番』という自伝を出版されている(講談社刊)。これを読むと、彼のここまでの努力の積み重ねがよくわかる。
この曲が次にいつ演奏されるかは知らないが、そのときにはぜひ駆けつけたいと思う。彼にはどこか、私がめざす音楽と共通するところを感じる。
「ロマンティシズムへの回帰」、そして「官能の海に溺れる音楽こそ、21世紀の新しき前衛」と提唱してきた私としては、彼のような人が同じ世界にいて下さることに、とても勇気づけられるのだ。
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初めまして。
始めてカキコします!
いつも応援しています。
お仕事頑張って下さい。
投稿: nana | 2009年8月 6日 (木) 22時44分
佐村河内さんの番組が今夜3時半からフジテレビであります!
『いま、ヒロシマが聴こえる…~全聾作曲家・佐村河内守が紡ぐ闇からの音~』
フジテレビ 2009/8/7(金) 27:30 - 28:25
投稿: めめ | 2009年8月 7日 (金) 19時14分
初めて、お邪魔します。
佐村河内さんの御本、是非、読んでみたいと思います。
これからも、応援しています。
頑張ってください!
投稿: スコア | 2009年8月13日 (木) 09時30分
はじめまして。
このブログで佐村河内さんのことをしり、
きょう佐村河内さんの交響曲を聞いてきました。
素晴らしい体験でした!!
ああいう曲が今後もプログラムに乗っていくことを望みます。
投稿: 鶫 | 2010年4月 4日 (日) 23時34分
はじめまして。お邪魔します。
4/4の東京初演、私も行きました。
演奏前のプレトークで大友直人さんが
「三枝さんに『とにかく、僕はこの曲に感動したんだ』と言われて・・」とおっしゃってましたが、
まさしくその通りで自分もただただ感動しました。
心の深いところに届く音楽でした。
印象的だったのは、第一楽章のラスト。
原爆が落ちたことを象徴するような轟音と衝撃音の後、
沈黙? 静寂? を感じさせるような、
かすかな低音が暫く続くところで鳥肌が立ちました。
第三楽章のラストでは涙が出そうでした。。。
あの場にいられて本当によかったです。
佐村河内さんの音楽にようやく触れることができたのも
三枝さんのおかげだと思うのです。
これからもお仕事がんばってください!!
投稿: のの | 2010年4月 7日 (水) 22時45分
三枝成彰先生の血をひく真の天才の登場だと思います。佐村河内守さん、素晴らしい才能ですね!
三枝成彰先生の次回作オペラも楽しみに待っています。
投稿: 秋津 | 2013年4月15日 (月) 16時58分
「本当の作曲者」新垣隆氏さんにも同じことを言って、援護してあげてくださいね。
「曲」に感動したのなら。
投稿: あらら | 2014年2月 7日 (金) 00時50分
絶賛してた人、今赤面中。
投稿: | 2014年2月 7日 (金) 02時52分
これは恥ずかしい
投稿: 佐技 | 2014年2月 7日 (金) 11時36分
このブログ記事が消える2時間前!?
投稿: | 2014年2月 7日 (金) 15時26分
あーらら‥
類は友を‥のたぐい?
投稿: | 2014年2月 9日 (日) 05時23分
鬼武者でなく、影武者がいたということですねwww
投稿: | 2014年2月 9日 (日) 14時35分
三枝先生の耳が心配です
投稿: | 2014年2月 9日 (日) 20時23分
新垣さんがんばれ!
投稿: | 2014年2月10日 (月) 12時23分
三枝先生のコメントを見にきたのですが
まだでしょうか?
投稿: | 2014年2月10日 (月) 15時34分
いいものはいい!
ですよね?三枝先生
投稿: | 2014年2月11日 (火) 10時05分
これで申し開きできなかったら三枝センセイも終わりだな
投稿: | 2014年2月11日 (火) 11時51分
芥川作曲賞で最終選考に残らなかったのは、
ほかの先生方はそれがマーラーのパクリだとお気付きだったのでしょう。
三枝先生、もしもそれが新垣隆氏の作品だと知っていたなら、
同じ評価ができたでしょうか?
コメントお待ちしております。
投稿: 弁当弁 | 2014年2月11日 (火) 21時06分