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2009年7月12日 (日)

勇気をもらった「交響曲第一番」

広島ご出身の作曲家に、佐村河内守(さむらごうち・まもる)という人がいる。

 広島への原爆投下で被爆されたご両親のもと、1963年に生まれた彼は、幼いころにお母様から音楽の手ほどきを受けられたのを初めとして、作曲家を志すようになったという。

 しかし、成長するにしたがって、しばしば彼は原因不明の頭痛、耳鳴りや体調不良に見舞われる。そして、35歳になったころ、完全に聴覚を失ってしまわれた。

 そんな苦境にあっても、彼は音楽への情熱を失わず、幼いころからの鋭い感受性と天性のセンスをもとに、ほとばしる思いを胸に秘めて独学で勉強を続け、曲を書き続けた。

 私は知らなかったのだが、『鬼武者』というゲームの音楽などで、高い評価を受けてこられたようだ。

 そんな佐村河内さんが書き上げた「交響曲第一番」が、昨年、広島で行われたG8議長サミットを記念したコンサートで初演された。曲の構想は彼が17歳のころからあったという。およそ20年にわたって書き継がれた曲なのだ。

芥川作曲賞という作曲家のコンクールがある。今年、その選考員をおおせつかった私は、その候補作の一つだった「交響曲第一番」を選考委員会で聴いた。

それまで佐村河内さんのことをまったく存じ上げなかった私は、予備知識なしにこの作品を聴いたのだが、大きな衝撃を受けた。

まずは曲の素晴らしさに驚き、その後、彼のプロフィールを知ってさらに驚いた。

そして、ぜひこの作品を最終選考に残すように申し上げたのだが、そうなるには至らなかった。

曲のスタイルが新しいか古いかと言われれば、「交響曲第一番」は確かに古いスタイルにのっとって書かれた作品かもしれない。しかし、そんなことは作品の良し悪しとは関係のないことだ。

……と思うのだが、いわゆる“現代音楽”に携わっている人たちからすれば、確かによい曲だとわかってはいても、やはり評価は、よりコンセプチュアルで先鋭的な作品のほうへ傾いてしまうきらいがある。

しかし、選考に漏れたからといって、この作品の価値はいっこうに揺らぐものではない。それに私は、佐村河内さんが上述したようなバックボーンを持つ人だから「交響曲第一番」がよいと思ったわけではない。

純粋にいい曲だから惹かれたのである。それはこの曲を聴いたことのある人たちなら、わかっていただけるはずだ。

 初演のときはテレビなどでも取り上げられたようだし、その前年、彼は曲のタイトルどおりの『交響曲第一番』という自伝を出版されている(講談社刊)。これを読むと、彼のここまでの努力の積み重ねがよくわかる。

 この曲が次にいつ演奏されるかは知らないが、そのときにはぜひ駆けつけたいと思う。彼にはどこか、私がめざす音楽と共通するところを感じる。

「ロマンティシズムへの回帰」、そして「官能の海に溺れる音楽こそ、21世紀の新しき前衛」と提唱してきた私としては、彼のような人が同じ世界にいて下さることに、とても勇気づけられるのだ。

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コメント

初めまして。

始めてカキコします!

いつも応援しています。
お仕事頑張って下さい。

佐村河内さんの番組が今夜3時半からフジテレビであります!
『いま、ヒロシマが聴こえる…~全聾作曲家・佐村河内守が紡ぐ闇からの音~』
フジテレビ    2009/8/7(金) 27:30 - 28:25

初めて、お邪魔します。
佐村河内さんの御本、是非、読んでみたいと思います。

これからも、応援しています。
頑張ってください!

はじめまして。
このブログで佐村河内さんのことをしり、
きょう佐村河内さんの交響曲を聞いてきました。
素晴らしい体験でした!!

ああいう曲が今後もプログラムに乗っていくことを望みます。

はじめまして。お邪魔します。

4/4の東京初演、私も行きました。
演奏前のプレトークで大友直人さんが
「三枝さんに『とにかく、僕はこの曲に感動したんだ』と言われて・・」とおっしゃってましたが、
まさしくその通りで自分もただただ感動しました。
心の深いところに届く音楽でした。
印象的だったのは、第一楽章のラスト。
原爆が落ちたことを象徴するような轟音と衝撃音の後、
沈黙? 静寂? を感じさせるような、
かすかな低音が暫く続くところで鳥肌が立ちました。
第三楽章のラストでは涙が出そうでした。。。
あの場にいられて本当によかったです。
佐村河内さんの音楽にようやく触れることができたのも
三枝さんのおかげだと思うのです。
これからもお仕事がんばってください!!

三枝成彰先生の血をひく真の天才の登場だと思います。佐村河内守さん、素晴らしい才能ですね!
三枝成彰先生の次回作オペラも楽しみに待っています。

「本当の作曲者」新垣隆氏さんにも同じことを言って、援護してあげてくださいね。
「曲」に感動したのなら。

絶賛してた人、今赤面中。

これは恥ずかしい

このブログ記事が消える2時間前!?

あーらら‥
類は友を‥のたぐい?

鬼武者でなく、影武者がいたということですねwww

三枝先生の耳が心配です

新垣さんがんばれ!

三枝先生のコメントを見にきたのですが
まだでしょうか?

いいものはいい!
ですよね?三枝先生

これで申し開きできなかったら三枝センセイも終わりだな

芥川作曲賞で最終選考に残らなかったのは、
ほかの先生方はそれがマーラーのパクリだとお気付きだったのでしょう。
三枝先生、もしもそれが新垣隆氏の作品だと知っていたなら、
同じ評価ができたでしょうか?
コメントお待ちしております。

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» 佐村河内守さん [チルソククリニックは診療中]
昨夜、偶然『佐村河内守さん』という作曲家の方の特集番組を見ました。 彼は、広島出身の被爆二世で、幼い頃から母親からピアノを習い、「もう何も教えることはない」と言われた小学生のときから夢は作曲家。 しかし、高校生だったある日、路面電車の中で急激な頭痛に襲われ停留所のベンチで倒れこんでしまいます。 それからずっと毎日毎日頭痛に悩まされ、とうとう聴覚を10年前に完全に失ってしまいます。 聴覚を失くす前に依頼があったゲーム音楽の曲作り。 本当だともう作曲なんてできっこないです。でも彼は... [続きを読む]

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