懐かしの路面電車展示
渋川市によると、同電車は高崎線、前橋線、伊香保線の3路線があった。 伊香保に向かう伊香保線は標高差が500メートルほどもあるため、勾配を抑えるために数多くのカーブが作られ、前進と後進を繰り返すスイッチバック方式の運行方法も採用されていたという。 だが、代替手段のバスが登場したこともあり、伊香保線は1956年に廃線となった。使われていた車両は台車を外して希望者に譲渡されたが、住居として利用された後に取り壊されるなど、ほぼ全てが姿を消した。唯一車両を自宅の庭で保管していたのが、昨年4月に92歳で亡くなった渋川市石原の眼科医、平形義人さんだった。長男の寿孝さん(59)は「塗装を自分で直したり、家を訪ねる人たちに見せて楽しそうに説明したりしていた」と愛着ぶりを語る。 義人さんは生前「台車を加えた完全な姿をもう一度見たい」と望んでいたといい、渋川市が寄贈を受け、2012年度から修復に着手。全国から合致する古い台車を探して愛知県の男性から譲渡を受け、昨年9月から埼玉県内の工場で修理を行い、完成にこぎ着けた。1月25日に渋川市中心部で披露イベントが行われ、茶色とクリーム色の姿が披露された。 平形さんは車両を見ることができなかったが、寿孝さんは「多くの人に見てもらえて父も喜んでいるだろう」と話した。高校卒業直後、アルバイトの帰り道に最後の運行に乗車したという同市の木暮由二さん(75)は「遅いから、友達が『カーブの手前でトイレに行っても、曲がった頃に電車に戻れる』なんて言っていたっけ」と懐かしがっていた。 渋川市は車両を展示する伊香保温泉の広場を「峠の公園」として新たに整備する計画で、市まちづくり課は「鉄道ファンにとって貴重であるだけでなく、地元の人々の思い入れが強い電車。伊香保の新たな観光名所の一つになって欲しい」と期待を込めている。 (読売新聞) |