実は自分で作曲していなかった「現代のベートーベン」が背負う罪の大きさは――。“両耳が聞こえない作曲家”佐村河内守氏(さむらごうち・まもる=50)のゴーストライター発覚は世界を驚がくさせた。同氏が作ったことになっていた曲をソチ五輪で使用するフィギュアスケートの高橋大輔(27=関大大学院)も巻き込んだのだから、その衝撃は大きい。まさかの“偽装”で、佐村河内氏はどんな罪に問われ、どうやって償うのか。
佐村河内氏の“罪”について「作曲していないのに、あたかも作曲したように偽り、だまして著作権料や作曲料をせしめている。これは詐欺に当たる。レコード会社はもちろんのこと、コンサートの客や主催者なども被害者になる」と語るのは板倉宏日大名誉教授(刑法)だ。
音楽界で発覚した前代未聞の騒動。レコード会社のダメージは大きい。CDの出荷と配信は5日に停止された。購入したファンはもちろん、18万枚を売り上げ代表作ともなった「交響曲第1番 HIROSHIMA」をはじめ、計4枚のCD、DVDをリリースした日本コロムビアもやはり被害者だ。
CDで佐村河内氏は、どれだけ稼いだのか。
「交響曲第1番――」をはじめ、トータルで約22万枚というクラシック界では空前の売り上げを記録した。某レコード会社幹部は「あくまで一般論だが、多く見積もって、作曲家印税という面で見れば、2000万~3000万円くらいではないか」とみる。
コンサートが中止となった主催者側は当面、最も損害を受ける被害者と言えるだろう。全国ツアーの最中に発覚した騒動を受けて、公演を手がける「サモンプロモーション」は今後の公演の中止を発表、チケットも払い戻す。
あるイベント関係者は「コンサートは会場や、演奏者であるオーケストラも押さえなければいけない。それにかかる費用は莫大。チケットの払い戻しの手数料など、様々な面で興行会社は損害を被る。イメージダウンも考慮すれば、損害は数億円といっても言い過ぎではない。当然、損害賠償という裁判沙汰になる可能性は高い」と話している。
演奏会での佐村河内氏の収入に関しては「契約の問題によるが、『佐村河内』という名前で客を集めている。自分が演奏するわけではないが、当然、出演ギャラも高いだろう。もろもろを合わせれば億単位のカネは手にしていたと思われる」(レコード会社幹部)。
CDを買い、コンサートに出かけたファンの精神的ダメージも計り知れない。昨年3月のNHKスペシャル「魂の旋律~音を失った作曲家~」で一気に注目度がアップした佐村河内氏。あの「TIME」誌にも「現代のベートーベン」と称賛されたことで、海外にも多くのファンがいる。東日本大震災でも「ピアノのためのレクイエム」を発表し、被災者にも支持された。それが、別人の曲だったでは、怒りは簡単に収まらないだろう。
こんな佐村河内氏について知人は「実際に会うと謙虚な人と感じるが、アシスタントやマネジャーなど自分より立場が弱い人には相当、ごうまんだったとは聞く。『キレたら大変』という話だった。それによく『○○に載ります』などのメールをもらった。自己顕示欲が強い人だなということは感じた」と明かす。
佐村河内氏が損害賠償で莫大な金額を請求されることは間違いない。詐欺罪の刑事罰は「1件につき10年以下の懲役ですが、起訴されても執行猶予がついて懲役3年くらいだと思います」(板倉名誉教授)
一方で、18年間にわたってゴースト役をしてきた桐朋学園大作曲専攻非常勤講師の新垣隆氏(43)の責任については「共同正犯、ほう助。いずれにしても詐欺の共犯の可能性があります。責任比率では佐村河内氏8‥新垣氏2くらいでしょうか。それぞれこの比率で賠償額を負担しなければならないことになるでしょう」。
一部報道によると現在、思考停止に近い状態でまともに話もできないという佐村河内氏。世界中のクラシックファンの夢と感動をブチ壊した罪が、軽いはずはない。