海上の重油 風あれば引火し火災に2月11日 19時34分
3年前の巨大地震では火災が相次ぎ、このうち海の上で広がった火災は津波で流出した重油が原因とされています。
重油は引火する危険性が比較的低いとされるため、これまでなぜ燃え広がったのか、そのメカニズムは分かっていませんでしたが、専門家の実験で、風があれば重油そのものに引火し、燃え広がる危険性があることが分かってきました。
3年前の巨大地震では、津波が原因で出火や延焼をした「津波火災」がおよそ160件発生し、宮城県気仙沼市ではタンクから海に流出した重油に火がつき、内陸まで延焼する大規模な火災となりました。
しかし、重油は石油製品の中でも引火する危険性が比較的低いとされる油で、特に海の上では薄く拡散するため、なぜ燃え広がったのか、そのメカニズムは分かっていませんでした。
このため、独立行政法人建築研究所などの研究グループは、2.5メートル四方の鉄の水槽を使って水の上に重油が流出した状態を作り、がれきに見立てた木組みを燃やして、どのような条件で重油に引火するのか調べました。
風がない場合は木組みが激しく燃えても水面を覆う重油には引火せず、燃え広がりませんでした。
重油は温まると温度が低いほうに引き寄せられる性質もあるため、燃える木組みから重油が離れたためだということです。
しかし、風速1.5メートルと、顔に感じる程度のごく弱い風で実験したところ、水面を覆う重油に火がつき、僅か3分程度で水槽全面に燃え広がって高さ5メートルほどの巨大な炎となりました。
さらに、風速3メートルでは、火の回りがさらに速くなり、僅か2分足らずで全面的に炎上し、炎も大きくなりました。
研究グループは、燃える木組みから離れるようとするはずの重油が風によって燃える木組みの近くに吹き寄せられて水面を覆う重油の温度が上がり、可燃性のガスが出て、一気に燃え広がったと見ています。
建築研究所の林吉彦上席研究員は「気仙沼で起きた海上火災は決して特異な現象ではないことが分かった。油が漏れない対策など、今後に役立てられるよう研究を続けていきたい」と話しています。
引火する危険性の低い重油
重油は、石油製品の中でも火を近づけるだけで燃え出すガソリンなどと違って、火を近づけてもすぐには燃えず、引火する危険性が比較的低いとされる油です。
水より軽く、海に流出すると水面に薄く広がります。
また温められると、分子どうしの結びつきが弱くなって温度の低いほうへ引き寄せられるという特徴があります。
このため流出した重油をガスバーナーであぶっても、温まった部分は温度の低いほうに引き寄せられるため、炎の先にある重油は遠ざかるように移動し、火はなかなかつきません。
このため、重油が海に漂っているだけでは大規模な火災につながるとはあまり考えられてきませんでした。
僅かな風で状況は一変
なぜ引火する危険性が低いとされる重油が風があると重油そのものに火がついて燃え広がるのか。
実験では風速1.5メートルでも僅か3分足らずで全面的に火災となりました。
そのメカニズムです。
風があると、燃える木組みから離れるようとするはずの重油が、風によって燃える木組みの近くに吹き寄せられます。
吹き寄せられた重油は炎によって次第に温度が上がります。
そして一定以上の温度になると、可燃性のガスが出て重油自体に火がつき、一気に燃え広がると考えられています。
建築研究所の林吉彦上席研究員は「今回の実験で、僅かな風で状況が一変することが分かった。海上では無風ということはほぼないので、重油タンクから油が漏れ、何かの火災が発生すると、海上火災が起きてしまうおそれがある」と話しています。
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