酒かすに守口大根を漬け込む作業員=愛知県扶桑町の扶桑守口食品で
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工場は、みりんかすと酒かすの甘い香りが充満していた。愛知県北部、扶桑町の扶桑守口食品の工場では、守口漬を漬け直す作業の真っ最中だった。守口漬は、細長い守口大根を酒かすなどで何度も漬け込んだものだ。
漬け床から大根を取り出す人、太さ別に分ける人、別の容器に次の漬け床を準備し、大根を並べる人。手際がいい。この日漬け直す大根は四トン分。「味にむらが出ないように、太さをそろえて、きれいに並べる。太い大根の入った容器は漬け込む日数を少し長めにといった調整をする」と品質管理室の田之上克己室長(48)は説明する。
原料の守口大根は昨年、一・九メートル超の大根が世界最長とギネス世界記録に認定された。扶桑町と岐阜市、岐阜県各務原市で作られている。各地区は木曽川や長良川の扇状地で、粒の細かい砂地の層が深く、守口大根の栽培に適している。守口大根は堅く、漬物専用。店頭には並ばない。すべてが漬物メーカーとの契約生産だからだ。
扶桑町は、守口大根の六割以上を生産。守口漬を作る業者は名古屋市を中心に十数社あるが、扶桑町にあるのは、扶桑守口食品だけ。「壽俵屋(じゅひょうや)」の屋号で、漬物を売っている。
守口漬は「足かけ三年」で仕上がる。九月に種をまき、十二月に収穫。すぐに生産者が塩漬けして、数カ月かけ水分を抜く。その後、製造業者の手に渡り、それぞれの漬け方で漬ける。扶桑守口食品では、二度目の塩漬けをして、さらに水分とあくを抜く。味付けの漬け込みは三度。酒かすとみりんかす、砂糖を混ぜた漬け床を最初から使うのが、このメーカーの方法だ。
この過程で、塩が徐々に抜けて、代わりに酒かすなどの味と香りが大根に染み込む。塩分濃度は4%。堅い繊維は軟らかくなる。種まきから三年、琥珀(こはく)色で、芳醇(ほうじゅん)な香りをまとった名古屋名産、守口漬ができあがる。
扶桑町の全ての小学校では、三年生から五年生が総合的な学習で守口漬作りを体験する。三年生で種まき、収穫。漬ける作業もして、五年生で完成品を家に持ち帰る。三年がかりの伝統の味は、地域に深く根付いている。
(文・佐橋大、写真・山田欣也)
◆味わう
扶桑町の喫茶店「くりの樹」は、小さく刻んだ守口漬を生地に入れたパウンドケーキ「守口ケーキ」を焼いている。店で味わえるほか、扶桑守口食品の直売店「漬処(つけどころ)壽俵屋」の扶桑本家(扶桑町)、犬山庵、犬山井上邸(以上愛知県犬山市)、同社のオンラインショップ=「扶桑守口食品」で検索=で買える。守口漬の香りや塩味がアクセントで、バターの風味豊かな生地とのバランスが絶妙だ。
直売店は、守口漬や加工品を販売。犬山庵では守口漬入りのソフトクリームも食べられる。
各社の守口漬は、名古屋市内など各地で買い求められる。
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