2月6日、全日本で男女を通して史上初の外国人監督だったゲーリー・サトウ氏の退任と、新監督の南部正司氏の就任が発表された。

 南部氏は2007年からパナソニック・パンサーズの監督を務め、リーグ、天皇杯、黒鷲旗大会の3冠を2度獲得するなど、国内での実績は十分。ただ、国内での成績がイコール代表監督としての手腕を意味するかどうかは、リーグを全勝優勝して全日本女子の監督になったものの、世界選手権一次ラウンド落ちで解任された吉川正博元監督などの例もあり、即断はできない。

 もっともパナソニックは例年ブラジル遠征などを実施しており、スタッフにもブラジル人を入れるなど、海外のバレーに接する機会も多かった。これまでの全日本の弱点は「海外での対戦があまりにも少ないこと」という南部氏は、自身のコネクションを最大限生かして、海外代表・クラブとの試合を増やしていきたいという。

 ゲーリー前監督の解任のきっかけは、2013年9月に行なわれた世界選手権アジア最終予選で韓国に惨敗し、日本がは初参加した1960年以来、初めて世界選手権の出場権を失ったことにあった。奇しくもその日は東京五輪の開催が決定した日でもあった。

 先月就任したばかりの荒木田裕子強化事業本部長は「世界選手権には当然出場できると思っていたので、ひどいショックを受けた」と語る。これには筆者も同感である。五輪出場が途絶えた"アトランタショック"以降も(厳密に言えばその前のモスクワ五輪もボイコット以前に出場権を逃していたのだが)、世界選手権には出場し続けてきた。それを逃したうえに、試合内容も最悪だった。人気ドラマ『半沢直樹』の直前のゴールデンタイムでの全国放映で、あってはならない醜態をさらしたのである。

 この事態を受けて、早くも9月15日には強化担当者が集まり、強化方針を検討。ゲーリー前監督率いる全日本の活動を全て見直し、構想やデータをすべて確認し、分析もして10月24日にはレポートにまとめたという。そしてグラチャン(史上初の全敗であった)後の12月、男子強化委員会を開催し、自薦・他薦の5名の候補によるプレゼンの結果、選ばれたのが南部氏だった。

 解任の理由は「アメリカのバレーは心身共に自立したトップアスリートのためのもの。それは日本の選手には時期尚早だと判断した」(荒木田強化事業本部長)、「コミュニケーションの問題」(羽牟裕一郎会長)などとされた。

 ゲーリー前監督の指揮した試合の結果から見れば、解任は決して不当なものとは言えない。他競技では、あるいはバレーボールでも海外リーグなどでは、成績不振のためにシーズン途中で監督が解任されることは普通にあることだ。ただ、ゲーリー前監督の場合、選考が遅れて就任も遅くなり、全日本登録メンバーを自分で選ぶことができなかったという事情がある。また、従来日本で常識とされてきた手法を一から変えていったために、すぐに勝利に結びつけることができなかった。このことをどう考えるべきなのか。

 選手選考について桑田美仁GMは、「登録候補を選んだのは我々ですが、その分多めに登録しました」という。グラチャン終了直後にゲーリー前監督に確認したところ、「その登録選手から実際の12名を選んだのは自分」とのことだった。「来年呼びたい選手はもういろいろ考えている。若手を増やしたい。大学の試合も見に行ったし、Vリーグや春高も見に行くつもりだ」と語っていたが、実際にグラチャンが終わった後は、Vリーグ、春高などに積極的に足を運び、来年度の候補選びに余念がなかったようである。

 グラチャン終了直後に緊急で行なわれた記者会見で、桑田GMは「ゲーリー監督でリオまでという基本路線は変わりません」と述べたが、その時点で既に解任の動きは水面下で進んでいたわけだ。

 ゲーリー前監督は監督経験がほとんどなく、ベンチワークにはもどかしいものを感じることが多かった。ただ、北京金メダルのアメリカ代表で長くスタッフを務めていた人物で、現在のグローバルスタンダードの戦術・トレーニング方法を知っていたことも事実である。選手たちは戸惑いつつも必死でそれを習得しようと努力している最中だった。

 ゲーリー監督の評価基準の一つに、今年ポーランドで行なわれる世界選手権での成績があったが、出場それ自体がかなわなかったことが、解任の判断の大きな要素となった。また、東京五輪決定で、「是が非でもよい成績を出さなければならないという目標ができたから」と桑田GMはコメントした。東京五輪決定がなければ、解任はなかったのかという質問には「お答えすることができません」と答えた。

 ゲーリー前監督の任命責任については、羽牟会長は「任命責任はあると思っています。しかし、彼を任命したことで、選手達が自ら考えることを始め、30年以上滞ってきた日本バレー界に新しい血を入れることができた。それは大きな収穫だったと考えています」と語っている。

 南部新監督が最も重視しているのはレシーブだという。ただし、守るだけでは勝てないので、「攻防一体」で守りつつ攻めるのが理想だとのこと。今年度の全日本メンバーで来年度も残るのは「50%くらい」。残すのは主にサイドアタッカーで、ミドルブロッカーについては大幅に変えることを考えている。セッターとリベロについても変える可能性がある。東京五輪のことを考えて、「若手を積極的に登用したい」と語り、具体的に雄物川高校の2メートル1センチのサイドアタッカー鈴木祐貴や、春高連覇の原動力となった星城高校の石川祐希の名前を挙げた。

 ゲーリー前監督が導入した、従来の日本の常識と異なる戦術について、どう評価しているか。南部監督は「私の口からは言えない」と答えたが、重ねてそれを引き継ぐかどうかに関して問うと、「私もゲーリーさんから直接聞いたわけではなく、帰ってきた選手から聞いたことばかりです。たとえばサーブレシーブを体の外側でとるという方式。それについてうちのダンチ選手(ブラジル代表でアテネでは金メダル、北京・ロンドンでは銀メダルを獲得)に聞いてみたところ、『それは正しい』と。ただ、スピードの速いサーブに関しては、ということらしいんですよね。だから、情報を精査して、受け継ぐところは受け継いでいきたい」という回答だった。

 パナソニックは全日本の主力選手を多く抱えていた(ロンドン五輪予選の時点で、宇佐美大輔、山本隆弘、清水邦広、福澤達哉、永野健の5名)ビッグクラブだが、南部監督は全日本メンバーが五輪予選でごっそり抜けた黒鷲旗大会で2度、チームを優勝させている。ナショナルチームは、国内のリーグのように、国内の有力な選手を多く集めて、いい助っ人外国人選手をとれれば勝てるというわけにはいかない。主力選手を多く欠く中で堅実に優勝旗を獲得できたその手腕に、全日本男子の立て直しがかかっている。

中西美雁●文 text by Nakanishi Mikari