特定秘密保護法と「社会的なるもの」

昨年12月6日、「特定秘密の保護に関する法律」(以下「特定秘密保護法」)が衆参両院における「強行採決」を経て成立した。

 

同法案に対しては周知の通り相当の批判があり、また自民党や与党である公明党からも問題点を指摘する声が相当数出たためか、日本維新の会・みんなの党との合意にもとづいた修正が加えられることとなった。

 

そこで以下では、成立時の条文を前提として、特定秘密保護法がなにを定めた法律であり、どのような問題を含んでいるかについて説明したのち、本法案をめぐる議論がしめすものについて述べることにしよう。

 

なおそもそも国民に対する秘密を作る法律などというものがなぜ必要なのか(あるいはどのような条件があれば不要なのか)という問題については別稿で論じているので参照していただければありがたい(大屋雄裕「秘密と近代的統治:「特定秘密」の前に考えるべきこと」『図書新聞』3140号(2014年1月1日)、図書新聞社、3面)。

 

 

特定秘密保護法の構成

 

特定秘密保護法は、(1)一定の情報を「特定秘密」に指定し(第2章)、(2)それを取り扱うことのできるものを制限するとともに(第4章)、(3)提供し得る場合・相手方を限定する(第3章)制度だと言うことができる。

 

特定秘密を取り扱うものはまず行政機関の職員であり、派生的に関連業務の委託などを受けた適合事業者の従業員等であるから、本法が第一義的に対象としているのは行政内部の統制だということになろう。

 

特定秘密の指定は、行政機関の長(典型的には大臣)が行なう(3条)。指定し得る情報の種類は別表で規定されており、防衛について「自衛隊の運用又はこれに関する見積り若しくは計画若しくは研究」など10項目、外交について5項目、特定有害活動(いわゆるスパイ行為)について4項目、テロリズム防止について4項目の合計23項目となっている。それぞれを秘匿するために用いる暗号が別々に規定されているなど実質的には重複する部分もある。また定義はいずれも、基本的には十分詳細なものとなっている。

 

特定秘密に指定された情報についてはその旨が表示される。表示できない情報については、特定秘密の取扱者に対して通知される(3条2項)。指定の有効期間の上限は5年であり、その満了時になお特定秘密の条件を満たす場合には更新することができるが、上限は通算30年とされている(4条)。

 

なお、やむを得ない場合には内閣の承認を得て通算60年まで更新を続けることができ、さらに「人的情報源に関する情報」「暗号」「外国の政府又は国際機関から六十年を超えて指定を行うことを条件に提供された情報」など4条4項に列挙された7項目についてはさらにそれを超えて保護することが認められる。

 

特定秘密の取扱者については、大臣・副大臣・政務官など11条に列挙された一部の職を除けば、行政機関の長による適性評価を受けることが求められる。適性評価においては「犯罪及び懲戒の経歴に関する事項」「薬物の濫用及び影響に関する事項」などが調査される(12条2項)。評価結果は本人に対しても通知され、不服がある場合には苦情を申し出ることができる(13条)。

 

特定秘密を提供することが認められるのは、安全保障上の必要があって行政府内・警察庁と都道府県警察間・適合事業者・外国政府や国際機関に提供する場合(6~9条)に限られるのが原則であり、いずれの場合も必要な水準の秘密保護措置を講じていることが求められる。これ以外には、国会が非公開の審査・調査を行なう場合、刑事事件の捜査・公判維持に必要な場合、民事訴訟法の規定に基づいて裁判所に提示する場合、そして情報公開・個人情報保護審査会に提示する場合が例外的に規定されているに留まる(10条)。

 

その上で、このような制度に違反した場合の罰則が規定されている(第7章)。罰則もまた特定秘密取扱者による漏洩(23条)が中心となるが、スパイ的に特定秘密を取得したものに対する罰則(24条、詳細は後述する)、漏洩やスパイ行為を「共謀し、教唆し、又は煽動した者」に対する処罰(25条)が規定されているため、行政職員・適合事業者従業員以外のものに対しても適用される可能性はあるということになる。

 

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