北極の氷の上を歩いてソ連とアメリカの国境を越えるという発想にしびれたんだと思う。でもそれだけじゃ当時は出国すらできないので、人類はアフリカから来てベーリング海峡を渡ってアメリカ大陸に入ったという学説を自分たちが歩いて証明するというこじつけを行なうんだよ。計画書にはそういうすごい理念が連ねられていたはずなんだよね。ベーリング海峡を渡って人類何万年の歴史解明に寄与するとか。
本当はただベーリングを歩きたいだけなのに、言葉をもって自分たちの正当性を認めさせようとした。そうしないと自分たちの存在意義とか活動の意味がわからなくなってしまうので。そういう習慣なんだよね。
角幡 学生時代からそういうことやっていると直木賞作家になれるんですかね。
高野 ワハハ。まあ、でも冗談だけでもなくて、関係はあると思うんだよ。だって、文章を書く目的って、自分の思っていることを書くことじゃないでしょう。読み手に「あ、なるほど」と思わせるのが目的でしょう。企画書だって小説だって。そんなことを学生時代からせっせとやっていると、一部の人にはそういう能力がすごく磨かれるということはあると思う。
角幡 たしかに僕、大学では文章なんかまったく書いていない。卒論も書いていないんですよ。探検部の計画書しか書いていなかった。
高野 だろう? だから鍛えられてるんだ。探検部で非常識な活動をやっていると文章技術がきっと上がるんだよ。
〈了〉
1966年、東京生まれ。早稲田大学第一文革部卒業。同大探検部在籍時に執筆した『幻の怪獣ムベンベを追え』でデビュー。タイ国立チェンマイ大学日本語講師を経て、ノンフィクション作家となる。著書に『アヘン王国潜入記』(集英社文庫)『西南シルクロードは密林に消える』(講談社)ほか多数。『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)で講談社ノンフィクション賞を受賞。
1976年、北海王芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。同社退社後、ネパール雪男探索隊隊員。『空白の五マイル』(集英社)で開高健ノンフィクション賞を受賞。『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で新田次郎文学賞受賞。『アグルーカの行方』(集英社)で講談社ノンフィクション賞受賞。
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- 『幻の東京オリンピック 1940年大会 招致から返上まで』著:橋本一夫---五輪戦士たちの哀感 (2014.01.23)
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