角幡 将来です。将来の展望というのはどうだったのかなと。
高野 ああ、将来ね。だから考えていなかったなあ。二十代も終わりが近づいてくると、そういうのが厳しくなってきたんだけど、でも、何かを書いて生きていくということにブレはなかった。というか、ほかのことはやりたくなかったので。
角幡 生活や収入をどうしようというよりも、これからどんな作品を書いていくかということのほうが重要だったということですか。
高野 うーん・・・・・・。これでいいのかっていうのは常にあったね。
角幡 それは書き手として? それとも生活者として?
高野 書き手として。一時期は、書いたものがさっぱり売れないし、評価もされなかった。そうすると自分の書いているものが間違っているんじゃないかと思えてくるんだよね。あとは、なかなか書けないとか。二十代後半は中国やタイで取材めいたことはよくしていたんだけど、それがひとつの本にまとめられなかった。自分のやっていることが何になるのか自分でもわからない状態で、そのときはすごく苦しかったな。迷走していた時代だね。
角幡 そこから脱したのは何かきっかけがあったんですか。
高野 ひとつは西南シルクロードに行ったこと。いろいろ苦労しながらインドまで行って、何かやり遂げたという気持ちになれたんだよね。それからこれはたまたまなんだけど、日本に帰ってきたら出版社からファクスが届いていて、「あなたの作品を全部うちで文庫化させてほしい」と。西南シルクロードに行く前は、気分としては崖っぷちだったんだけど、行ってみたら、気持ち的にはかなり充実して、さらに文庫化の話まで舞い込んでくるというラッキーも重なった。そんなことが迷走から脱出のきっかけにはなったかな。
でもそこから急速に浮上したわけではなくて、また数年、静かな時間があって、二〇〇五、六年かな、『ワセダ三畳青春記』(集英社文庫)で初めて増刷がかかった。「おお、増刷というのはかかるものなんだ」とびっくりした(笑)。それもひとつのきっかけだったかな。
角幡 ちなみに『アヘン王国潜入記』(集英社文庫)は、どれくらい売れたんですか?
高野 いや、単行本で出したときは全然売れなかった(笑)。
角幡 内容的にはものすごくて、「えー!?」っていうような本じゃないですか。
高野 だから、『ムベンベ』からスタートして十何冊かは、すべて初版で終わっちゃったよ。俺はずっと「重版童貞」といわれてた。
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